ベルサイユ製麺

誰のせいでもないのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

誰のせいでもない(2015年製作の映画)
3.9
ヴィム・ヴェンダース作品、劇映画は『パレルモ・シューティング』しか観ていなくて、その印象からとにかく感覚的というかアート志向の強そうな印象を持っていたのですが、今回改めて観てみると全然違っていて、凄くオーソドックスで丁寧な語り口なのにびっくりしました。
この作品、もう少し話題になっても良いのではないかな?確かに地味だし、分かりにくいのだとは思うのですけどね…。
予告だけ見るとサスペンスみたいですが、全く違います。強烈なある出来事をきっかけにして関わりを持ってしまった人達の心が、緩やかに触れたり、絡まったり、千切れたりetcする様を繊細に辛抱強く描きます。人物の心の働きが単純化されないので、常に想像力をフル回転させられます。会話シーン、空気感も含め全てが心と脳を刺激して眼が離せません。まるでテントのペグが全てバラバラの向きに打ち込まれていて、撓んだり張り詰めたりしているのをハラハラしながら見つめている様な印象。ラストの展開は、現時点ではなんとなく分かった気がする、という程度でした…。定期的に見直し案件発生です!
節目節目で数年単位で時間がジャンプする構成と、登場人物の年齢・性別の巧妙な配置の妙によって、殆どの観客に感情移入の入り口が用意されているように感じます。上手いなぁ。
ジェームズ・フランコ、元々心理を読みにくい役回りが多い印象ですが、今作はその資質を完全に活かし切った見事な演技です。映画の殆ど全てが彼の“見え方”にかかっていたと言っても過言では無いのでは。劇中、数年経つ毎に内面が変化している事が伝わってきます。そして最後の表情。本当に良い役者です。
シャルロット・ゲンズブール…。個人的には過去最高です。どんなに心理を正確に読み取ろうとしても、どうにも読み違えている様にしか思えない…。こんなのが人間の仕業?ヴィム・ヴェンダーズの仕業なの?

もう無視するしかない邦題(原題と印象が真逆!)やパッケージアートの印象から、アトム・エゴヤン監督みたいな陰気な作品をイメージしちゃってる方も多いのではないかと思いますが、実際はとても穏やかで前向きな作品です。私生活で誰かと言葉に出来ないような蟠りを抱えてしまってる時など、思いもかけず助けになるかもしれません。お試しあれ、ですよ。