えんさん

ルイの9番目の人生のえんさんのレビュー・感想・評価

ルイの9番目の人生(2015年製作の映画)
2.5
愛らしく賢い少年ルイは9年間で9度死にかけている。0歳のときは全身骨折、5歳のときには感電、8歳のときは食中毒と、毎年のごとく生死の境をさまよっていた。そして、9歳の誕生日に海辺の崖から転落する。奇跡的に助かるも昏睡状態に陥ってしまう。担当医パスカルがあらゆる手を尽くす中、転落した同じ日に行動をともにしていた父親は行方不明に、母親のもとには差出人不明の警告文が届くのだった。そして、パスカル自身も悪夢にうなされ、周囲の人々にも様々な異変に巻き込まれていくのだった。。イギリス人作家リズ・ジェンセンによる同名小説を映画化した作品。2008年に他界した「イングリッシュ・ペイシェント」の監督アンソニー・ミンゲラが生前に映画化を熱望していた企画を、息子マックス・ミンゲラがプロデューサー兼脚本家として実現。メガホンをとるのは「ホーンズ 容疑者と告白の角」のアレクサンドル・アジャ。

本作のエンドクレジットにて、亡きアンソニー・ミンゲラ監督の献辞があったのでどういうことかと不思議に思っていたのですが、彼自身が企画に関わっていたのですね。どちらかと言うと、ダーク・ファンタジーな色合いな本作を、濃密な大河ロマン劇を得意にしていたミンゲラが興味を持っていたのは意外なのですが、彼ならどう料理したのだろうと思ったりもします。本作を観て、まず感じたのは予告編でみてとれるようなファンタジーっぽい作りとは裏腹に、結構テーマはリアリズム溢れているというか、現実問題を直視しているように思いました。現実テーマをファンタジーの中で語っていた、昨年観させていただいた「怪物はささやく」に近いといえば近いですが、どちらかと言うと、僕はダークな「アメリ」という感じがすっときますかね。無論、あちらは恋愛劇で、本作とは全くテーマが違いますけどね(笑)。。

ただ、ファンタジーという色を出しながら、最終的には現実の問題を問うているので、少々回り道して、このことを描きたかったんかいとツッコみたくなる消化不良さは残る作品でした。ネタバレなので、テーマの核心には触れないですが、このテーマ自体も重要なものであるのは確かとは思うものの、作品の色合いがリアリズムとファンタジーのどっちにも振り切れずに終幕に入ってしまうのに物足りなさを感じたりします。治療にあたるパスカルの悪夢はいいとして、幻想世界に閉じこめられたルイが接触するモンスター(彼も重要な要素なのですが)を、もう少し物語の中で使ったほうがよかったと思います。そうすれと彼の存在を通して、現実世界と幻想世界がブリッジされて、同時に彼の正体が明かされることでの深みがもっと出たように思うのです。

こういうテーマ、「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロだったら、もっと上手く料理するんだろうなと思います。無理は承知ですが、デル・トロ版とミンゲラ版が是非見てみたいですね(笑)。