こたつむり

ルイの9番目の人生のこたつむりのレビュー・感想・評価

ルイの9番目の人生(2015年製作の映画)
4.0
★ 冬の風、潮の匂い、そして僕の太陽

まさしく「一寸先は闇」的な作品でした。
ラーメンを食べていたと思ったら焼きそばだった…。あるいは、ネコだと思ったらパン。しかも、一斤。そんな不思議な感覚を味わえる物語なのです。

あらすじとしては「生まれたときから事故や災難ばかりに遭うルイ。彼は彼の中で8度の死を迎えていた。そして、9歳の誕生日に9度目の死を迎える…」というもの。オープニングからして、手書きのクジラや文字が動き出し、優しい旋律が流れ、とてもふわふわな手触りなのです。

だから、自然とルイを庇護する気持ちになりました。親から手離れ、自らの意思で大きく羽ばたき、小さな手いっぱいに“まだ見ぬもの”を掴もうとする年頃は、不安定だからこそキラキラと輝いているのです。

そして、彼を取り囲む人々もツボを突いた配役。どこかで見たような、見ていないような。それは、既視感と新鮮さの隙間を縫うように変わっていく虹色。んー。素敵ですねえ。

しかし、油断してはいけません。
足元を見れば冬の湖のような一面の氷。
一歩歩くたびにミシミシと振動が伝わってくる…そんな危うさが支配しているのですよ。

だから、本作を鑑賞するには覚悟が必要。
ぬるま湯のような感動物語を期待するのではなく、華々しい舞台の裏側を覗き込む…それは世界の真理を受け止めること。陽射しに反射するような先入観は捨ててしまった方が吉なのです。

まあ、そんなわけで。
後ろから殴られる感覚が大好きな人にオススメの作品。やはり、虚構の世界は「想定外」こそが最高の調味料。鑑賞する際は是非とも“事前情報完全遮断”で臨んでください。

そして、物語をあるがままに受け止めて。
グワングワンと振り回されて。
バランス感覚がおかしくなった先に見えるのが…たぶん本物。浮遊物に気を取られて本質を見失わないようにしたいものですね。

あー。面白かった。
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