ゆっくりと流れる時間が心地よく、ヒョンの耳と腕にずっと見とれていた。好意を抱く男の耳と腕が好きだから、それを思い出していた。掴みたい。目の前にそれがあるなら、何度も視界に入れてその美しさを確認したい。
この映画が映す言葉のない手軽な気持ちの旅の歩みの中には、旅先での女との時間を求める30代既婚者男性の下心がある。
こうなることは分かっていた。観てるみんな分かっていた。
旅をしていると社会から切り離されたところに身を置くからこそ日常の美しさを感じる事ができる。故に、その時間を愛しく思うが、必然的に政治や社会はそこに介入してくる。
途中、韓流好きの高齢の日本人女性が現れる。「日本でいうと奈良みたいな感じかしら」など観光客らしい会話をする。退店後歩みを戻して、日本語ができるユニに「韓国の人に謝りたいと思っていたの、ずっと。昔、日本が韓国にした酷いこと、ごめんなさいね。許してね」と唐突に告げる。
謝る相手も違うし、そんな手軽に謝る物でもなければ、まだその問題は解決していないのにそれを認識できていない事が浮き彫りになる場面で、見覚えのある景色に思わず頭を抱えてしまった。
この場面以外にも、今私たちが生きる世界でよく目にする、社会の悲しい出来事が映されている。
私はユニみたいにセクハラおじさんにあんな風に優しく立ち回れないなと思ったり。
好意のある人と行くカラオケは、普段意味を持たない歌の言葉に意味が生まれてしまうよね。とか。
地元の謎の会合とか。
結局、ヒョンの話やんけと思いつつ、エンド曲も良くて最後まで見惚れる映画だった。