えんさん

PKのえんさんのレビュー・感想・評価

PK(2014年製作の映画)
4.5
留学先のベルギーで運命的な出会いをしたジャグー。しかし、相手はインドとは長年対立をしているイスラム教国のパキスタン青年だったことから、家族が猛反対。その反対を振り切って、結婚直前までいくが破断となってしまう。傷心のジャグーはインドに戻り、TV局で働き始まる。そんなとき、自身の願いを聞き入れてくれる神を探す“PK”と名乗るユニークな男と出会い、番組に出演させるのだが。。「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再タッグを組んだ笑いと涙のドラマ。

インド映画として新しい風を吹き込んだ「きっと、うまくいく」の監督・主演陣による、新感覚宗教コメディ映画。コメディだけでなく、インド映画らしい歌や踊りもあれば、ヒューマンドラマも、ラブロマンスも、はてまたSF映画としての要素もあるという、さすが世界のエンターテイメントを詰め込むインド映画のよさが十二分に発揮されたといってもいいでしょう。「きっと、うまくいく」は僕の生涯の中でも指折りの作品に入るくらいの傑作で、本作も期待十分でしたが、その期待を裏切らない出来といってもいいでしょう。やや笑いの部分が一面的過ぎるところもあって、「きっと、うまくいく」ほどの厚みがあるドラマに昇華できない部分もあるのは少々残念なところ。でも、本作を観た映画館での同じ鑑賞回に、インド人家族が偶然にもいたのですけど、その中にいた小さい子どもキャッキャ笑える楽しさがあるというのは、楽しさの質が高い証拠だと思います。

あと、本作で注目したいのは、宗教映画としての要素。今まで宗教映画というと、仏教なら「手塚治虫のブッダ」のように仏典の内容を映画にしたり、キリスト教なら「パッション」のようにキリストの生涯を描いたりと、特定の宗教にフォーカスしたり、宗教によって起こる対立や戦争を描いたりというのが、宗教映画と呼ばれる分野だったように思います。これは僕の解釈なのですが、宗教というのは「信じること」を体系化したものだと思っています。なので、無宗教の人でも、人を信じることができる人は宗教家であると思うし、仏教やイスラム教など違いはあれど、その宗教の長い歴史の中で、如何に自然であったり、人というものを信じて、人生を切り開くかを様々な賢人たちが苦労をして体系化してきたのだと思います。そうして宗教の力を借りて、自分であったり、周りの人や社会を如何に幸せにするかを考えていく。宗教そのものは単なる媒体に過ぎないのですが、それでも宗教がないと、世の幸せは半減するのではないかとも思うのです。

本作は、そうした様々な宗教をコメディ要素として皮肉りながらも、自らの願いを叶えるために、人は何を信じるのかということを真面目に考えていくのです。アーミル・カーン演じる謎の男は、願いを叶えるといいながら、なかなか願いを叶えてくれない神様という存在を真面目に、論理的に追求していく。この真面目さがとにかく面白いのです。必死に願うが、いつも願いを叶えてくれない神様には疑いはしつつも、彼は決して絶望することはない。なぜなら、彼には信じる手段がそれしかないから。しかし、その真摯な姿勢が人を動かし、周り巡って彼の願いを叶える方向へと、人生を動かしていく。きっと願いというのは与えられるものではなくて、それを掴めるように進んでいくこと。宗教は人類が作った叡智という媒体物であるからこそ、「信じれば道を示してくれるもの」かもしれないと観ていて思えてくる。なので、本作はれっきとした宗教映画なのです。