みかんぼうや

ナイトクローラーのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
3.7
【他人の不幸は蜜の味。人間が持つ本能的ネガティビティバイアスに取り憑かれた狂人ジェイク・ギレンホール!しかしこれをただの“サイコパス”で片づけていいのだろうか?】

久しぶりになかなか人道外れ気味のイッちゃってる主人公の作品だ。最近優しく温かいヒューマンドラマを多めに観ていたからちょっと新鮮。でもね、やっぱりこういうちょっと狂った系の作品、大好き。

ジェイク・ギレンホール演じる定職も見つからないルー(ルイス)は、どこの放送局にも属せず“殺人”、“強盗”、“自動車事故”などの現場を自らの足で撮影しローカルTV局に売り込み、その映像がトップニュースを飾り始めていく・・・という話。

それらの映像を撮るために、スクープ優先で事件の被害者や同業界の仲間の命など一切顧みずネタにしてしまうという狂人性が作品を通して描かれている。しかし、これを「主人公ルーがただの“サイコパス”だから」で片づけるのはやや結論を焦りすぎている気がしてならない。

この作品の中心にあるのは、明らかに心理学で言う、人間が持つ“ネガティビティバイアス”だ。人はネガティブな情報に注意を引き付けられやすいという習性は、私たち日本人が日本のTVやネットニュース、ワイドショーで見かけるトップニュースの多くが不幸・悲劇的な内容や倫理観に反する内容(不倫など)であることからも明らかだ。

ルーの映像を積極的に担当のニュース番組で使おうとする女性プロデューサーのニーナは、自分の番組の成功と出世のために、まさにこの“ネガティビティバイアス”に取り憑かれた人間であり、彼女がルーに言う「裕福な白人が黒人に襲われる事件などはなおさら良い」という人種差別的発言を含んだこの言葉は、さらに一歩踏み込んだ“他人の不幸は蜜の味”という人間の妬みや怒りなどの本能を利用するもので、ルーに潜在的な狂人的資質があったとはいえ、そのルーの狂人性を掘り起こし顕在化させたのは、このニーナの存在であり、さらに言うならば、ニーナにそういった言動を駆り立てさせる一般視聴者、つまり人間が持つ本能そのものなのだろう。

そう考えると、やはり「ルーがただのサイコパスでした」では片づけられない部分もある。彼は彼なりに、自らビジネスとしての成功を収めるためにひたむきに求められるものを撮り続けていただけなのかもしれないから。と書きながら、そんなニーナの感性に対して、疑問を持たずあっさりと同調するどころか、撮影時に被害者の思いや感情なども一切顧みず、自分の立ち位置と力が上がるにつれ、それを巧みに利用し圧力をかけ始めるルーは、やはり著しく偏った思考や行動をとり続けていることは間違いない。

【サイコパス=一般人と比べて著しく偏った考え方や行動を取り、対人コミュニケーションに支障をきたすパーソナリティ障害の一種】だそうで・・・あれ、ということはやっぱりルーはサイコパスということか!?

ジェイク・ギレンホールの作品は、つい先日「ドニー・ダーコ」を観たばかり。「ドニー・ダーコ」での若き日の彼の雰囲気や目つきがあまりにも“ヤバくて”、もう一作、彼の狂人的演技を見たいと思ったが、こちらでもそれは健在!こういう個性派キャラクターを演じられる俳優さん、本当に好きです。

ちなみに、本作は上記のような内容を書くと、なんか社会派映画的な要素が強そうな感じがしてしまいます。が、途中から薄々感じ始め、最後のシーンで確信したのですが、本作は社会派サスペンスっぽく見せたシニカルなブラックコメディ・・・ですよね!?
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