Mikiyoshi1986

とうもろこしの島のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

とうもろこしの島(2014年製作の映画)
4.1
ソ連崩壊後、ジョージア(旧グルジア)からの独立を巡るアブハジア紛争を背景に、自然の摂理と人間の原初的な営みを捉えた寓話的作品。

極限まで台詞を排した本作は美しい"画"の連なりが我々に多くを語りかけます。

春になるとジョージア・アブハジア間を流れる川には雪解け水が氾濫し、堆積した土で誕生する肥沃な中州。
戦闘地域であるものの国土争いに侵されず、ただ自然の神秘のみによってもたらされたこの小さな中間地帯には、アブハジアの老人がとうもろこしを育てる農地としての役目を与えられます。

寡黙に一から小屋を建て、種をまき、孫娘と共に収穫までを過ごす日々。
銃声音や兵士のボートの往来を尻目に、この自然の恩恵による不可侵領地は聖域としての意味合いを強めます。

そこで焦点が当てられるのは少女が次第に一人の女性として成熟してゆく過程でもあり、その純粋無垢なエロティシズムを追ったカメラは確信的。
また初潮の暗喩だったり、人形との距離感は彼女の成長を表し、
特に少女の裸体が月明かりに照らされて沐浴する姿は大変清らかであり幻想的であります。

しかし突如、このノーマンズランドにジョージア人の負傷兵が舞い込むことで打ち砕かれる平穏。

負傷兵と少女との交流はビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」を彷彿とさせ、
少女の成長のフォーカスは「青いパパイヤの香り」を想起させます。

季節が廻れば再び消滅する中州の一生。
そこで育まれるのは日々の糧である穀物の生育。
それらを介して描かれる女性の姿は生命の源を意識させ、
自然のサイクルの中で享受される"存在"の尊さはより戦争の無益さを強烈に印象付けるのです。

照明の主張が強すぎてどうしても気になっちゃうシーンはチラホラあったものの、
過酷な自然の恵みに生かされつつ、その中で小競り合う人間の小ささを諭す、大変含蓄に富んだ作品でした。
Mikiyoshi1986

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