らいち

ビリギャルのらいちのレビュー・感想・評価

ビリギャル(2015年製作の映画)
4.5
新作DVDレンタルにて。
まさかの感動作。所詮はアイドル映画とナメていたけど、大ヒット&多くの賛辞を受けている理由がよくわかった。絵に描いたようなわかりやすいサクセスストーリーなのだが、描かれるドラマはけっこう多面的でいろんな味わいが残る。このテの笑って泣ける映画としては日本映画にはないセンスの良さ。目がしらジンワリ。ヤラれた。

成績がビリで偏差値の最下層にいた女子高生が、大学受験合格を目指し、猛勉強の末、慶応大学に合格するという話。

映画のタイトルは「ビリギャル」だが、原作本のタイトルを観れば「合格する」というハッピーエンドはバレており、観る前から結末はわかっている。それなのに本作は面白い。描かれるのは、主人公が大きな夢を掴むためにどのようにして成長を遂げたのか、その過程の物語であり、お受験のhowto映画ではなかった。

主人公の女子が劣等生になった大きな要因は、母親の育て方にある。小学校時代、いじめられっコだった娘を思いやり母親は娘を私立中学へ入学させる。「ワクワクする」人生を歩んでほしいと、娘が興味を持つことを全面的に支持する。しかし、その興味が主人公の場合「遊び」に振れる。遊びを吸収することに反比例して、勉強は疎かになり知識量は大幅な遅れをとる。そんななか、ある事件が起こり主人公が停学処分をくらったタイミングで母親は、チラシで見た学習塾での面談を勧める。そこで主人公は若い講師に出会う。その人は主人公の個性を受け入れ、隠れたチャームを褒めまくる。主人公は心地よさを覚え、講師が提案した「大学受験」という目標にのっかってみることにする。

ポイントは、母親は親バカではないし、学習塾の講師は二枚舌ではないということ。どちらも主人公が持つ可能性を純粋に信じているのだ。
講師の指導により、主人公は見事にその潜在能力を開花させ、自身も勉強の楽しさ、知らなかったことを知っていく楽しさを覚えていく。母親や友人たちの理解とサポートも手伝い、ノリで始めた「ケーオー受験」が「慶応受験」に変わり、目標が達成すべき確かなものになる。劇中、多用される「意思あるところに道は開ける」という言葉のとおり、彼女の堅い意思が努力というエンジンを発動させ、みるみるうちに成績をレベルアップさせる。

が、壁にブチ当たる。どうにも越えられない壁がある。思わず「わかるー!」と共感する。主人公の場合、偏差値の最下層2%から、96%の人たちをイッキにゴボウ抜きにして最上位2%に上りつめる離れ業を達成せねばならない。そんなに巧くいくはずはないのだ。主人公の心は完全に折れる。妥協して「ここまでよく頑張った」とギブアップしてもOKだったはず。しかし、主人公の導火線に再び火がつく。きっかけは、弟の挫折だ。努力が身を結ぶ勉強に対して、才能が決定打となるスポーツの世界。弟の目の前にあるのは越えられない壁だが、自分の目の前にあるのは越えられる壁かもしれない。自分の挑戦を見届けてほしい。主人公の夢が家族の夢になる。

その後、主人公は、家族、教師、友人たちとの絆を力に見事成功をおさめるが、本作の視点として優れているのは、主人公が周りから支えられるばかりではなく、主人公の挑戦が周りの人間たちに勇気を与え、彼らの成長に少なからず影響している点である。それを見逃さなかった脚本が素晴らしく、周りの視点からでも映画を楽しめるようになっている。バラバラになっていた家族が1つにまとまり、教師は自分が信じた教育が正しかったことを確信するに至り、友人たちは主人公の挑戦をみて新たな目標を模索しようとする。目標に向かって努力を惜しまない生き様はそれだけ尊いのだ。たとえ、それが失敗してもだ。

確かな演出とキャストたちの好演に助けられ、キャラクターたちの心情に外れることなく入り込むことができた。主人公演じた有村架純の、コメディにもシリアスにも自然体で変化する演技に引きつけられた。伊藤淳史が教師役を演じることにまったく興味が湧かなかったのだが、彼の未熟さと実直さを感じさせる個性がキャラに見事にマッチしていて完全にもらい泣き。母性に縁がないと思われた吉田羊だったが、「あーちゃん」「さやちゃん」と呼び合う母子関係と、彼女が娘を「信じる」に至った赤ん坊時のエピソードにこれまた泣かされた。頑固な父親を演じた田中哲司の不器用な父性と「おんぶ」がこれまた涙腺を刺激してくれる。

泣かす映画ではなく、劇中のキャラクターたちの感動がそのまま観る側に伝染する。クサい空気になろうものなら「それキモいわ」の一蹴で救われる。ドラマチックなシーンも敢えてストレートに見せない編集も感動を際立たせる。終盤にある父親の人助けシーンが少々蛇足で惜しいが、無駄な説明と興冷めなキャラ描写が横行する日本映画においては珍しい秀作。エンドロールでサンボマスターが歌う「可能性」(まさに本作のテーマ!)の盛り上がりで、高揚感がしばらく続いた。

【75点】