Jeffrey

神々のたそがれのJeffreyのレビュー・感想・評価

神々のたそがれ(2013年製作の映画)
4.8
‪「神々のたそがれ」

‪冒頭、‬とある惑星のアルカナル。
地球、ルネッサンスの到来、中世、科学者、歴史家、調査団、派遣、権力、商人、殺戮、知的財産の抹殺、文化発展、政治への介入。今、人間が神になる惑星が写し出される…本作はストルガツキー兄弟の"神様はつらい"をアレクセイ・ゲルマンが監督した2013年のSF大作にして、彼の息子により、完成へと導かれた作品で、上映時間177分のカフカ的状況の世界に陥るグロテスクで品性下劣な傑作をこの度久々に鑑賞した。

やはりすごいパワーを感じる映画だ。
今の時代こんな存在感を放つ映画を作れる作家は滅多にないだろう。にしても原作のストルガツキーの独特の設定をうまく表現したタルコフスキーの作品で、この原作者は世界的に有名になったのは承知の通りだが、21世紀になって改めてゲルマンの手によって映画化された本作で、この原作者が新たな時代の人々に名前を改めて知られた事は意義のあるものだと思う。

本作は冒頭から圧倒的な映像美で見るものを制圧する。

物語は雪降るとある都市。ここは地球よりも800年進化が遅れている。この惑星に学者30人が派遣された。この惑星は大学を破壊し、知識人等が狩られる野蛮な世界(これはポルポト政権下のカンボジアしかり、スターリン時代の社会主義国家を映している)では、少しマシとされる隣国イルカンへ逃亡した人々がいた。だが、途中で力付き倒れ、ある者は処刑され、灰色部隊と言う王権守護大臣ドン・レバ率いる集団が野蛮な行為を行なっていた。

そこに地球人であるルマータが観察者として一部始終を見るも、彼の恋人アリが神聖軍団に◯◯され、彼は厳命されていた観察のみのルールを破り、武装し、戦闘態勢へと入る。そして彼の家にあの神聖軍団が入り込み…と簡単に話すとこんな感じで、兎に角難解極まる作品である。

にしても今迄、歴史を紐解いて行く作風ばかりを撮ってきたゲルマンが、ここに来てSF映画(空想科学小説)を映画化してしまうなんて、どんなサプライズだ?と思ってしまう。

本作の撮影地がチェコ共和国の歴史的な中世の建築物が多く残っているロケ地を選んだそうだが、この作品を見るとそれは大正解である。それに舞台装置やその規模の大きさは計り知れなくて、そのおかげでこの作品は素晴らしいものになっている。

それにキャストの1人で役柄は男爵なのだが、98年にゲルマンが監督した「フルスタリョフ、車を!」の主人公役の人でびっくりした。

それとこの膨大なエキストラにも注目してほしい。ブルーレイの付属についている特典ディスクを鑑賞したのだが、彼の撮影風景を初めて見たのはこれが発売された数年前で、改めて見ても凄い迫力でエキストラや役者に怒鳴り散らして怒っている。これが高水準を要求する監督の姿勢なのだろう。

そういえば偶然か、今月の2月21日に監督が心不全で亡くなっている。今年で7年目だ…。本作は救われない映画を好む人たちにもオススメができる。胸糞悪い終わり、救済なき世界、虚無感、絶望、苦悶、悲惨とネガティブな言葉が入り乱れる作品だ。

広大な土地柄を思わせる画面構図だが、中身は閉鎖的な演出がある。それに加えCGを使わずに自力で作り上げた生々しさと古城の建築物の圧倒さが凄い。特に中世の絵画を見ているかのようなワンショットがいくつもあり、これらだけのシーンを古典で開いてもいい位のものである。

突如、豪雨に見舞われる場面や泥の中を駆け回る子供の描写、野蛮人たちの生活、ありとあらゆる古代的な小道具や大道具の散乱と厭世的な世界にフルートの音色が奏でられる。それらをひたすら長回しする画面構図。画面は徐々に荒れ始め、白い霧が写し出され、雨は更に酷くなる。

小動物の鳴き声、カメラ目線の老人の雄叫び、悪臭放つ沼の静寂な演出、馬のクローズアップ、顔面に石油的な物を塗ったり、ケツのアップなど、品性下劣な描写が多く、前作の「フルスタリョフ、車を!」の延長線上にある混迷を更に極めた意味不明、と言うか難解な作風で、上映時間も更に延び、カフカ的な描写だらけの1本だ。

これがレンタルされない理由も多少わかる気がする。

この映画の凄いところはアンドレイ・タルコフスキー監督の「アンドレイ・ルブリョフ」を彷仏とさせる中世ヨーロッパの舞台背景を完成させ、これが21世紀に創られたと思えない完璧なセットと演出に驚く点だ。

まるで半世紀前の時代に制作したかの如く、古臭く、だが画期的で、既に古典映画である事だ。個人的には古き良き作品が大好きなので、この作品はかなり評価が高くなる。

中には偉大な監督たちの作品の焼き直しと思う人もいるかもしれないが、見ての通りにとんでもない怪物映画で破壊力抜群の1本と言う事は認めざるを得ない。

余談だが、この監督は1930年代から50年代にかけたロシアを描くのが好きだな。過去作全てそうじゃないか…。

それにソ連がチェコを占領したいわゆる"チェコ事件"のおかげで、この作品がボツになったと言う経歴もあるようで、当初映画版の題名は「アルカナル虐殺の年代記」だったそうだ。

‪正に監督が言う様にエイリアン不在のSF超大作である。まだ未見の方は是非1度体験して欲しい…‬
Jeffrey

Jeffrey