磔刑

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーの磔刑のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「犠牲なくして勝利なし」

大満足です。序盤の各キャラクターが出会うまでの少し鈍重に思える立ち上がり。中盤ヒーロー側の目的を一つにする為に情報整理を兼ねた説明的なドラマ運びは間延びした印象を受け、不安になった。が、兎にも角にも終わりを完璧に締めくくってくれただけでも大成功と言えるだろう。

シリーズお馴染みの面々とアメコミ映画の新時代を象徴するキャラクター達が同じ作品内で邂逅を果たすだけでも十分ドラマティック且つ、ファンとしてはそれだけで満足感で一杯だ。そして気付けば世界と世界が旧知の仲の様に自然と融和する奇跡、そのクロスオーバー作品の醍醐味を遺憾なく演出し、観ている者を魅了してくれる内容となっている。
物語は大きく分けてアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)とキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)2人の視点で進行する。皮肉屋のアイアンマンとストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)、そして全員コメディリリーフのガーディアンズの組み合わせのデコボコ具合は凄まじく、スタークの呆れ具合が真に迫っている。しかしサノス(ジョシュ・ブローリン)との戦いの中で即席ではあるがしっかりチームとして動いているのには感動させられた。それに反してキャップ組は終始目的に対して実直に物事を進め、コメディリリーフが茶化すことも限りなく少ないので私的にはこちらのストーリーラインが直ぐに順応できた。只どちらのチームが好みかと言う差はあれど、2つのチームの戦い対する温度差を大きな物語の流れの緩急に使うのはシリーズが始まって10年を迎え、キャラクター数が大所帯になったからこそ出来る優れた演出だと言える。

そして何と言っても今作の主役はヴィランのサノスに他ならないだろう。
オープニングシークエンスのサノスはよく見かける腕っ節の強い暴君的なキャラクターだ。しかし話が進めば進むほどにセンチメンタルな一面を見せ、相当観客を戸惑わせる賛否が真っ二つに分かれるであろう人物像だ。
私的にはヴィラン側の動機やバックボーンを掘り下げること自体は賛成だ。何より過去作のmcu作品のヴィランの存在自体が限りなく軽視され、ヒーローのサンドバッグ程度の意義しか無くヒーローとヴィランとの間のドラマが脆弱であった。しかしヴィラン側にも己が信じる正義と信念が存在し、ヒーロー側の正義と真っ向からぶつかり合う事はドラマとして非常に見応えがあり、最早サノスは只のヴィランではなくアベンジャーズとは真逆の正義を掲げるヒーローと言っても過言ではない。

今作ではサノス側の視点を用いてヴィランが何故ヒーローに勝てたのかを丹念に描こうとしているのも目新しさの一つだ。サノスの動機である故郷の星の滅亡は遅すぎた犠牲が原因にある。その為サノスは目的の為なら愛娘を犠牲にする事すら厭わず、その冷徹なまでのストイックさがサノスを勝利に大きく近づいた要因なのは間違いない。
逆にヒーロー側はロキ(トム・ヒドルストン)やストレンジ、スター・ロード(クリス・プラット)の2度に渡る選択のミス等で描写される“愛するも者を犠牲にして大局的な勝利を得る”事が出来ができず、度重なる物語のターニングポイントでの甘さがアベンジャーズの敗北へと着実に近づけてしまっているのは言うまでもない。
しかし過去作を思い返せば幾度とない戦いでヒーロー達が勝利を収めてきたのは、“チームとなり一致団結し、互いの弱さを補う事で犠牲を最小限に抑えて来た事”に由来しており、それ故勝利の為に犠牲を払う事に躊躇した。或いは元からその様な選択肢は存在しないが為、目的の為なら死と犠牲を厭わないサノスの不動の信念に敗北したと言え、互いの勝利に対する判断と正義のあり方の違いを対比し際立たせ演出している。
ソー(クリス・ヘムズワース)のハンマーやワンダ(エリザベス・オルセン)とヴィジョン(ポール・ベタニー)の取った行動に示されるヒーロー側の犠牲を払った行動がサノスを土壇場まで追い詰めたが、選択の遅さと犠牲の少なさ故に惑星タイタンの避けられぬ滅びと同じ様に敗北する結果となった。しかしながらヒーロー側が犠牲を払い、滅亡を回避しようとする姿に少なからず敬意を払うサノスの姿はヒロイックな印象すら受ける。そして今までのヒーロー映画のエンディングを飾ってきた勝利と栄光ではなく、敗北と絶望のカタルシスが支配するラストは今までのヒーロー映画を過去のものにする程の衝撃と言っても過言ではないだろう。

いくつものドラマが同時進行する形態にはテンポの悪さを少なからず感じるものの、各ドラマにしっかり魅せ場を用意し飽きさせない様に作られている。キャップが初登場するシーンにはシビれ、アイアンマンの進化するガジェットも一層クールに仕上がっている。『アベンジャーズ エイジオブウルトロン』から続くワンダとヴィジョンの関係が今作まで生きる事は意外なのと同時に、クライマックスでの彼らの選択には泣せずにはいられない。そしてアベンジャーズほぼ全員と小細工抜きで真正面からぶつかり、完勝したサノスのスケール感と懐の大きが作品に一番の華を添える役割を果たしている。何より今作最大の魅せ場であるサノスがインフィニティ・ストーンを集め、指を鳴らした後の世界に訪れる緊張感と絶望感、そしてこの壮大なユニバースが本当に終わる事を想起させられる静かな終焉には10年追い続けて来たファンの涙腺崩壊は禁じ得ず、特にスタークとスパイダーマン/ピーター・パーカー(トム・ホランド)とのやり取りは号泣必至だ。

一口にmcu誕生から10年と言っても、その歴史の集大成を一つの作品に落とし込める事は至難の技に他ならず、観ていて製作陣の生みの苦しみがヒシヒシと伝わる一作となっている。しかし壮大なユニバースの幕引きの序章となる絶望を完璧なまでに演出しながら、最後には新たなる希望が残されている事を示唆するヒロイックさを決して忘れない、ヒーロー映画ならではの粋な演出は次回作に今以上の期待を寄せる事かでき、少なくとも前編としては完璧な出来だと言っていいだろう。『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』、『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』と立て続けにヒーロー映画の新たな可能性を見出してきたルッソ兄弟だからこそ本作に抜擢されたが、その期待を全く裏切らない手腕ぶりを賞賛したい。
本作は次作の完結編と対を成して評価するのが相応しいが、天井知らずの期待値に対しての本作の出来は暫定的にではあるが最高評価の☆5.0を贈るに相応しい内容だと言っていいだろう。
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