磔刑

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカの磔刑のレビュー・感想・評価

5.0
「クロスオーバー作品最高傑作」

アメコミ映画の普遍性においては一作目の『アベンジャーズ』が上だ。しかし一層世界観が広がり、扱うキャラクター数も多彩極める一種の混沌とした現状をまとめ切った脚本の巧みさとクレバーさは本作の方が上だろう。
高く評価したい点は大きく分けて二つあり、一点はラストのアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr)VSキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)&ウィンター・ソルジャー/バッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)に至るまでの巧みなサスペンス劇、中盤の見所である空港での大乱闘とそれに参戦する各キャラクターのドラマ構築だ。

初見ではスタークとスティーブの闘いまでの経緯に驚かされるが見直してみるとそれに至るまでのドラマ構築がしっかりなされており、繰り返し鑑賞してもその都度面白さを再発見できる内容となっている。スタークが映し出す両親のVR映像には彼の後悔がそのまま反映されており、後々の展開を知っていればそれだけで泣かされる。スタークのスティーブに対する嫉妬心や対抗意識も父と深める事の出来なかった信頼関係がスティーブと父親にある事に起因しているし、スパイダーマン/ピーター・パーカー(トム・ホランド)をスカウトするスタークの姿には父との蟠りをピーターの良き父になる事で払拭しようとしているように見える。
スティーブとバッキーが何度かの戦いの中で信頼関係を取り戻していく姿も最終決戦の三竦みに素晴らしい効果を生んでいる。細かいユーモアを互いに言い合う姿からはバッキーがウィンター・ソルジャーの呪縛から解かれているのが伺い知れるし、バッキーとファルコン(アンソニー・マッキー)がスティーブの相棒の座を奪い合う姿も微笑ましい。スタークは過去を紐解く事で、スティーブはバッキーとの友情を取り戻していく事で安易な落とし所や退路を絶って互いに戦う事に繋がり、ラストバトルに一段と緊張感を生む結果に繋がっている。
最終決戦の中でスタークが目視で攻撃する所やスティーブとバッキーの連携プレー、近接戦闘ならアイアンよりキャプテン・アメリカが勝りそれを分析し反撃するアイアンマン等。安易にVFXに頼らない個々のキャラクター性を効果的に使用した戦い方が垣間見えるアクションの見所が満載のmcu史上ベストバウトの戦いだ。
最終決戦の原因となる事件がオープニングシークエンスで映し出されながらも同時にミスリードとなるマクガフィンに印象が残る様に演出する手法は虚実が混在する完成されたオープニングシークエンスだと言える。そもそもアメコミ映画という媒体を物語の核心の隠れ蓑にしている事自体が革新的で、今作最大の見せ場である空港のバトルシーンがその役割を担っている。同時に空港のシークエンスで観客に一定以上の満足感を与え、スティーブとスタークの対立自体を有耶無耶に終わらせても良いという印象を持たせ、ウィンターソルジャー軍がその落とし所としての最適な役割なのだが、そのありきたりな落とし所を完全に逆手に取った展開はサスペンス映画としても一級品だ。バッキーを睨みつけるスターク。それを感じてバツが悪そうに視線を逸らすバッキー。間を取り持ち四面楚歌なスティーブ。このシークエンスは何度観ても鳥肌が立つ見事な緊張感だ。

そしてもう一つの見所は空港での大乱闘であり、ほぼ大型クロスオーバー作品に位置付けされる本作において全キャラクターに目的や動機がしっかり明示され、誰一人として置物や只の引き立て役になっていないのは奇跡的だと言える。
アベンジャーズの新参者であるワンダ(エリザベス・オルセン)とヴィジョン(ポール・ベタニー)がフューチャーされ、今後のヒーロー映画を担う自らの今後の立ち位置を見定め葛藤している様にも感じられる。人工知能故に人間性を今ひとつ理解出来ないヴィジョンのユーモアも只の笑いに留まらずにキャラクター性を端的に上手く掘り下げているし、そう言った一面を改造人間としてのバックボーンが存在するワンダと共感しているのも納得できる。
終始シリアスかつ重厚に進んで行く物語だからこそ製作陣やキャラクターがそれに飲まれ、本来のキャラクター性を見失った行動を取ってしまいがちだ。しかしキャラクターごとの性格や個別のストーリーを考慮して立ち位置を描き分けているのは今作で一番褒めたい所の一つだ。大部分の人物が真面目にヒーローの行く末を決める為に奮起する中でスパイダーマンとアントマン(ポール・ラッド)がコメディリリーフとしての役割をキッチリこなしているのは製作陣のクレバーさが顕著に伺える大きな要素の一つだ。超人パワーを手に入れた只の学生であるピーター、伸び縮みできるだけのフリーターおじさんのアントマンにアベンジャーズ内の内紛やイデオロギーの闘争など理解できる分けがない。それを踏まえた上で戦いに参戦されながらもノイズにならない程度に笑いを取っているだけで彼らの役割は完璧に果たしていると言える。今作で初登場のスパイダーマンも自身の単体作品の布石と期待感をしっかりと残している。
スタークとスティーブの答えの無い対立。闘争の根源と本質の一つの答えを導き出す役割を担っているブラック・パンサー(チャドウィック・ボーズマン)はスタークとスティーブと同じ位に重要なキャラクターだ。スタークとスティーブは今までの活躍で己の立場や正義が確立されているからこそ互いに引き下がる事が出来ず、対立してしまっている。だが今作が初登場であり、主演作の無い真っさらな存在であるからこそブラック・パンサーは対立構造の根源のメタ的存在であるジモ(ダニエル・ブリュー)を“許す”柔軟な答えを導き出す事が出来た。その美しくも現代的な正義の執行が次世代の新たなヒーロー像を描き出しており、この功績か後の単独作の超ヒットへと繋がっていると言える。
marvel作品図一の地味なヴィランであるジモもアクションの見せ場こそ無いが自らの計画を完璧に遂行しただけでも飛んだり跳ねたりするだけの目立ちたがり屋のヴィランより遥かに作品の完成度に貢献している。marvel作品を除くヒーロー映画の中でもヴィランとしての目論見を完璧に遂行したのは彼と『ウォッチメン』のオジマンディアスぐらいだし、ヒーローのサンドバッグとなり引き立て役となる事の多いヴィランの中では一線を画する存在だと言える。

兎にも角にもクロスオーバー作品の中でも図一の登場人物の多さであり、スタークとスティーブの対立、バッキーの存在、それを追随するブラック・パンサー、暗躍するジモ、隠された過去、それを引っ掻き回す超新星ルーキーのスパイダーマン。と扱う物語もキャラクター数も過去最大級となりながらもしっかり一つの作品として完成させているのは奇跡の所業としか言いようがない。只、今作が私的に高評価なのはクロスオーバー作品故であり、今ままでのmcu作品を一つ残らず鑑賞していたが故のご褒美的作品だと思っている。つまりアミコメ映画に疎い人だとか、全てのシリーズを追っていない人からすれば全く持って無価値な作品だと言え、鑑賞に最低限事前に観ておくべき作品が群を抜いて多い点はクロスオーバー作品の一つの弱点だとも言える。
しかしファン目線から言えばこれ程上質なクロスオーバー作品は後にも先にも出ないのではないかと思える。
磔刑

磔刑