m

ブラックパンサーのmのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.8
熱く血が滾る娯楽活劇としての面白さと、あらゆる面での作り手の志の高さとが高純度で融合した尊い映画だった。その野心と高貴さはマーベル映画の枠組みを飛び越えている。「フルートベール駅で」「クリード」に続いてライアン・クーグラー監督、またしてもエラい事を成し遂げた。

悪役であるキルモンガーことエリックの人物造形に顕著なように映画は終始トランプ時代の善悪の狭間を問い掛けて、そこから新世代のリーダーたる高潔な主人公が何を選び取るかを真摯に描く。
作り手のルーツであるアフリカの伝統文化を誇り高く美しく表現する音楽・美術・衣装の痺れるカッコよさと鮮やかさ(現代的なセンスと伝統文化のミックス、この世界観は新しい!)、シュリ・オコエ・ナキアの3人の女性登場人物達がそれぞれの形で体現するハリウッド映画の新たな女性像、理想を真っ直ぐに伝える台詞の嫌味のない高潔さ。それら全てが作品をこれまでのハリウッド映画とは違う境地へと誘っている。観終わって一緒に観た友人達と話せば話す程その豊かさと面白味が増していくスルメ仕様でもある。見事な野心作だった。

役者は全員魅力的で、先述の女性達だけでなく陛下ことチャドウィック・ボーズマンの品と優しさの宿る眼差しと声、『山のゴリラ』などと揶揄されながらもオイシイ所をさらうエムバク役ウィンストン・デュークのユーモラスな漢気も良いが、何と言っても素晴らしいのがライアン監督のミューズであるマイケル・B・ジョーダン。実は登場時間が少ないエリックだが、演じるマイケルのカリスマ性と演技力のお陰で(その人物造形も相まって)観客の心にその存在を大きく刻み込んでいる。

韓国でのアクション・シークエンスでの擬似長回しやユーモアの演出が見事で、クライマックスでは複数の闘いを同時進行で見せながらしっかりツボを押さえて興奮を高めていく(欲を言うともう一押しねちっこい演出があるとさらに良かった)。

陛下とエリックの闘いが辿る結末は物凄く端的に書くと『エモい』。ライアン監督作品らしいそのエモさに今回も惹かれた。








今作を観て思うのが、日本映画界はもう『ポリコレのせいで窮屈だ、野蛮に帰ろう』などと昭和に回帰している場合じゃない。日本映画の作り手が足枷だと思っている『多様性』『正しさ』は「マッドマックス 怒りのデスロード」「お嬢さん」そして今作、と重層的で豊かでこれまでにない面白さを孕んだ新たな境地の作品を産み出している。



残念だったのが今回観たTOHOシネマズ渋谷の映写がやたら暗くて(他の劇場で観た人間に訊くと渋谷は明らかに暗すぎるらしいしyoutubeに上がっている本編クリップを観ると印象が全く違う)、特に前半において鑑賞の妨げになってしまった事。違う劇場でもう一度観ます。
m

m