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ブラックパンサーのdeenityのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.0
マーベル最新作。ほとんど黒人しか登場しないというのもなかなか面白く革新的なヒーロー物と言える作品。その設定に加えてヴィブラニウムという物質により独自の発展を遂げたワカンダという国があり、その国の誇る技術が素晴らしい。

個人的に武器がどれだけ優れているとかは夢があるけどちょっと子どもっぽいかな、と思うときも多いんだけど、本作の技術面は不思議とワクワクした。
銃ではビクともしないガラスや衝撃を吸収して蓄積させ反射させるスーツ、医療技術とかはまじで実現してほしいレベルで、それを持ち合わせた壮大且つ幻想的なワカンダには惹かれるものがあった。

アフリカの伝統文化との融合って感じがとてもいいのだが、黒人中心に描いたことによりマーベル作品のイメージを覆すほどの深みが出た点が何より素晴らしい。
その上で欠かせないのが敵役のキルモンガー。
ワカンダという国は独自で力を持ち、他人種との交流を持たなくとも独立しているため平和かもしれない。しかし、実際外に目を向けてみると、そこに存在するのはアフリカ系黒人が蔑まれるという現実。それを知っても尚、手を差し伸べようとしない。ともすれば、ワカンダ国民はさながら現実社会でのアフリカ系黒人でも力を持つ権力者を象徴しているとも言えるはず。

そんな中で対立するのがキルモンガーで、彼は外に目を向けて立ち上がらせようとする。「力を分け与える」という思想。一見悪にも取れるが、一概に悪だとも言い切れない。優しさとも受け取れる。これが今作の敵キャラの人気の理由だろう。深みがあってかっこいいのだ。

ただそれを単純に蹴散らしたのでは作品としての深みはない。キルモンガーだって共感を得ているかもしれないが、正義ではない。大切なのは受け入れることだ。

力があるから平和が保たれて自分が幸せならそれでいいか、と言えば良くはない。じゃあ戦って力がある者が制服すればいいか、と言えばそれも違う。互いの思いを理解しながら自分たちのできる最大限の努力をすること。それが求められていることである。

ティ・チャラ王は国の人のことも考えながら、誰よりもキルモンガーに同情し、理解を示した。でも思いは理解しても手段が違う。その手段が違えば、今まで人類が繰り返してきた争いなど避けられるはずだ。
そういう点で言えば、アフリカ系黒人の権力者に限定したメッセージではなく、世界中に向けられたメッセージとも受け取れるのではないか。

ラストシーン。会見を行うもやっぱり世間の目は厳しい。冷めた視線。そういう点でいうとやはり黒人向けなのだが、ずっと冷遇されてきた黒人たちの姿勢がまさに本作の通りならば、今度求められるのは他人種を受け入れてあげることであるはずだ。マーベルという誰もが手を出しやすい作品でこの社会性も含んだメッセージを踏まえたのが何よりも素晴らしかったと思う。
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