YukiSano

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生のYukiSanoのレビュー・感想・評価

3.8
この作品で一番恐ろしい魔法は「言葉」。
太平洋戦争前に圧倒的なカリスマが、あらゆる差別と不寛容を利用して社会を二分しようとする物語だった。

差別される者、またはする者は、血統であったり、人種、性差、派閥、などで分断されて、各々が疑心暗鬼となり、自身のコンプレックスから全てが相対的になっていく。

やがてファシストは、あらゆる人々の弱味と心の傷を甘言で埋めて、争いへと導く。

1920年代のヨーロッパで、これをする意味。この物語をJKローリングが2018年にする意味が本当に良く伝わる。

カリスマファシストたる、グリンデバルドは人の心に巣食う正義という名の闇を鼓舞するのに「言葉」を駆使する。彼は今回圧倒的な魔法を使っているが、決まって他人を落とす時は「言葉」しか発してない。

ヒトラーが生まれる前夜に、グリンデバルドが世界を分割する。人の心の隙間に入り込む魔法が、まさに黒い幕となって世界を覆う。白い無垢な者を包んだシーツは海の底に沈み、青い炎が正しき心を焼き尽くす。

主人公のニュートだけは、マイノリティの代表たる怪物を受け入れているが故に青い炎に飲み込まれない。

この物語は、あらゆるマイノリティ達が各々の立場で自分の居場所を探す物語だ。そして自分が披差別者だと思っている者が差別に加担していく恐怖も覗かせる。

だけど主人公だけは、自分の居場所を知っている。だから黒い魔法使いに勝てる唯一の存在なのだと言われるのだ。

世界に必要なのは、違いがある者と戦うことではなく、共に生きようとする努力なのだと主人公の姿で教えてくれている。

お前は、どちら側なのか?

そんな言葉で迷うよりも、もっと大切な魔法の言葉を唱えよう。
YukiSano

YukiSano