m

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生のmのレビュー・感想・評価

4.8
あの豊潤で素晴らしかった前作のドラマや世界が、あっという間に漆黒に塗り潰されていく様は心が痛い。

悪役の言動が実に現代的で、その悪意の巧みな拡散方法といい、心の弱い部分から黒く染まっていってしまう登場人物達といい、完全に『今』を描いた物語になっている。何故この時代設定なのかという事も明確な意図が明かされる。恐るべき野心作。

新設定や展開が猛烈に増えた脚本の複雑さを捌く事に手一杯で、登場人物達の感情の描写に若干演出の手が回りきっていないのは残念。演出や描写があともうひと押しあるともっとドラマが良く流れたのに、という所はある。
それでも演出や脚本の豊かさは節々に健在で、俳優陣も相変わらずチャーミング且つ巧みで素晴らしい。ジョニー・デップは久々に『怪演』ではない良い芝居をしたと思う。ニュートの兄役の俳優は個性や芝居は役に合っているが、アップになると肌が明らかにエディ・レッドメインより若い故に微妙に兄というより弟に見えるのは少し惜しい。

最終的には純血・血統主義や父権社会を否定するシリーズになっていくと思うが、今回はスターウォーズで言うと「帝国の逆襲」的なポジションの作品なのでまだ苦しい所で終わる。それでもJ・K・ローリングの現代社会の排外的な思想や純血主義への反感は「ハリー・ポッター」の時よりもはっきりと表現されていて、この複雑さとダークさへの躊躇いのない挑戦には賛辞を贈りたい。
m

m