佐藤でした

COMET コメットの佐藤でしたのレビュー・感想・評価

COMET コメット(2014年製作の映画)
2.0
なかなか進まない何かの行列に並ぶ青年デルが電話をしている。母親の肝臓ガンが発覚したというわりと深刻な話だ。それに聞き耳を立てた隣の若い女性が勝手に話に入ってくる。
男は彼女が医療の道に進もうとしている学生で、母親を肝臓ガンで亡くしたのがそのきっかけであることを見抜く。
さらに続けて「君は、お母さんと同じ病気の人を助けたい一心だ。だが志はすぐに薄れて、金まみれの医者になる。そんな自分に苦悩し、そして君も死ぬんだ。おそらくガンでね。皮肉なもんだ。」と言い放つ。

彼は“世界で一番自分が賢いと思う病気”、と既に診断されているらしいが、持ち前の優れた観察眼と相まって、本当に最悪の人間である。

そしてこれは、その列の一つ後ろに並んでいた女性キンバリーと彼が織りなすラブストーリーだ。

2人の出会いの頃と、
別れの手前の頃と、
偶然、街で再会した後
このだいたい3つの時間を行ったり来たりしてストーリーは進む。

前述した通り強烈な性格をしている男デルだが、ペネロペ・クルス似の彼女キンバリーもなかなか負けてない。
彼に飽きてきた頃、ドライブ中の電話で「もしもし? あ、今わたしの好きな曲流れてるから切るね。(ガチャ)」そして熱唱に専念する。
男の顔色をうかがったり、色目をつかったりすることに無縁の美女ができる、このサバサバ感が清々しい。

なにより彼女は彼の上手(うわて)をいっている。「5分後の未来を悲観して“今”を楽しめない」と言うデルに、「もしかしたら5分後に楽しいことが起こるとは考えないの?…わたしと出会う5分前は何を考えてた?」とニヤリと笑って切り返せるのがキンバリーだ。

だからデルは彼女に惚れ込んだのだろう。“世界で一番自分が賢いと思う”ような男だし。
それに彼女もまんざらでもない。その彼の悲観的な考えが、嫌いじゃないという。相性はいいようだ。

それでこの2人のラブストーリー、既視感はあるけど面白くなくもないんです。ただ、この時系列を入れ替える見せ方が…。
色んな形のラブストーリーで色んな監督がチャレンジしている手法だけど、「ブルーバレンタイン」や「エターナルサンシャイン」に勝るものは無い!です、私の中では。ずっと超えない。先に上げられたハードルが高過ぎる。
だからそれ以下は全部、“そのまま見せても、ありふれた恋愛話にしかならないから、時系列を入れ替えてみたけど、どう?”っていう安易なものにしか見えない。。時間を入れ替える意味を!意義を!考慮して然るべき時に使って欲しい手法ですよ。

それにこの作品にパラレルワールド感はあまりない。パラレルワールド好きは、ストーリーよりも「映像の構造」みたいなところに魅力を感じるんだと私は思っているので、時系列を組み替えたくらいでは“パラレルワールド”とは謳って欲しくない、です。

映像もあまり好みではなかった。逆光とかボンヤリとした光が印象的だけど、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーはやっぱ違うなぁ…としみじみ。
なんだろう。“悲しみ”の深度が違うと感じる。きっと既製品の真似事でなくて、本当にどこかで“見たことのある光”なんだろなぁと思う。

こういう恍惚とした夢の中のような、映像美で魅せるロマンチックって、CGありきでは難しいと感じる今日この頃。
アナログ&ローテクが使える巨匠たちの“ロマンチック”がやっぱり好きだ、と再認識させてもらった。
佐藤でした

佐藤でした