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ヘイル、シーザー!のKSatのレビュー・感想・評価

ヘイル、シーザー!(2016年製作の映画)
3.1
50年代ハリウッドを舞台に、度重なるトラブルを処理する主人公の活躍を豪華キャストで描いた、コーエン兄弟のコメディ大作!

...という触れ込みだが、「バートン・フィンク」、ではない。よく見ると、資本主義と共産主義、古代ローマとキリスト教といった対立構造が浮かび上がってくる。

スタジオの名前は「キャピトル・ピクチャーズ」だし、古代ローマは資本主義そのもののような世界だ。しかし、その古代ローマの映画で主演を張っているハリウッドスターが共産主義者たちに誘拐され、感化されてしまうというのだから、なかなか可笑しい。身代金はコミンテルンに渡されるためのものなのだ(そしてそれを、「エンゲルス」を守るために取り損なうのだ)!

キリストの表現が納得いくかどうかを確かめるために、わざわざカトリックとプロテスタント、東方正教会、ユダヤそれぞれの神父、牧師、司祭、ラビを呼んだり、毎朝教会で懺悔をしたり、劇中劇でのキリスト(を演じるエキストラ)が絶対に顔を見せなかったりと、明らかにキリスト教を皮肉りつつ、理想郷が(宗教を認めない)共産主義であるかのように描くあたり、かなり意地が悪い。

ただ、全体にまあ、まとまりがない。全体像が全く見えず、誰も全体像を知る者がいないところから、逆にそれこそが「全体」や「世界」なのだ、という姿勢は、「ビッグ・リボウスキ」のよう。とはいえ、あちらの方がキャラクターは遥かに面白かった。

トランプとプーチンが対立してほとんど冷戦と変わらない世の中になった今だからこそ作ったんだろうか?とりあえず、夜の海にソ連の巨大な原子力潜水艦が浮かんでくるシーンは必見!ソ連の赤軍合唱団の曲をこんなに使ったハリウッド映画なんて、他にないのでは?
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