松瀬研祐

イロイロ ぬくもりの記憶の松瀬研祐のレビュー・感想・評価

イロイロ ぬくもりの記憶(2013年製作の映画)
3.8
劇中で出てくるVHSビデオやたまごっちなど、時代設定はやや過去。インドネシア(他国)からお金のためにお手伝いさんがやってくる。そのようなお手伝いさんを雇うことが当たり前の文化的な背景など、舞台であるシンガポールについて知ることができるとより深く観れるのかもしれない。
自分は不勉強だ。

時代背景や社会的ななにかがテーマではなく、ひたすらにとある家族の、それぞれの生き方を映画は見つめていく。失業した父親。出産を控えつつも働き続け、お手伝いさんに母親の立場を奪われるのではないかと不安に陥る母親。クラスでいじめられているわけではないが、なぜか反抗的な行動をとり、問題視されている息子。そこに現れるインドネシアからやってきたお手伝いさんの女性。年齢が25歳というが、失礼を承知でいうと少し年上に見える。自身の宗教的な慣習も充分に行えない他国での仕事。そのうえ、子供のわがままさ、たるや。父も母もそれぞれ自己都合で動いていく。で、失業するは新興宗教に騙されるは、学校は辞められそうになるなど、じわじわと息苦しいことが続き、最終的にはお手伝いさんへの賃金も支払えず、強制帰国させるしかなくなる。
とはいえ、僅かながら、家族の再生を漂わせる終わり。音楽は二箇所のみ挿入されるが、いずれもラジオウォークマンから漏れ聞こえてくる設定。二か所と言っても物語中盤のお手伝いさんと子供のシーンは、本当に雑踏の中の後ろ姿(とはいえ、このシーンも良かった)で音声はわずかにしか聞こえない。もう一つは、ラストの出産を迎える病院で待っている父子のくだり。そこがエンディングにつながっている。それにしても飼っている鳥を、きちんと食べるシーンなど文化的に躊躇い無く食べるところは、当たり前なのだろうかどこかユーモアがある。劇的な場面を劇的にさせずに淡々と見せる。不意に、本当に唐突にでてくる飛び降り自殺の場面は、その不意さが画面にも表れて、そこのお手伝いさんの表情と背景の光が良かった。

ピクニックシネマにて。
松瀬研祐

松瀬研祐