カルダモン

エル・トポのカルダモンのレビュー・感想・評価

エル・トポ(1970年製作の映画)
4.6
2014年4月26日の鑑賞記録

吉祥寺バウスシアターの閉館イベント「ラストバウス」の初日に『エルトポ』の上映が行われ、監督のアレハンドロ・ホドロフスキーが登壇した。当然のことながら完売御礼で、通路席や最後尾のパイプ椅子、立ち見なども埋まる盛況振りだった。こんな光景は公開当時でも見られなかったに違いない。

ずいぶん久しぶりに見たけれど、映画の持つ不思議な引力は失っていなかった。むしろスクリーンに映し出されることでハッキリと異質さが浮かぶようだった。やたらと俗っぽいのに啓示的な展開であったりショッキングな画作りであったり、緩急の度合いが掴めない。しかし一度覗いてみるとクセになり、いつのまにかここにしかない味を求めている。そんな隠れた名店の旨味こそがリピーターの多い理由なのだろう。一方で妙な親しみやすさも感じる。東洋をベースにしていることが原因かもしれない。万人受けとまではいかないだろうが、一生に一食の価値アリ。


終映後いよいよホドロフスキー監督のトーク、、、のはずが、なんと「現在会場に向かっている最中」とのこと。直前のスケジュールで100人座禅をやっていた影響によるまさかの遅刻だった。場内アナウンスでリアルタイムに監督の実況中継が差し込まれる。

「あと10分ほどで到着する模様です!」
「追加情報、あと3分ほどで‼︎・・・」
「あと1分で!!‼︎・・・」

バウスシアターのスタッフが繰り出す実況スキルは24時間テレビのマラソンさながら、今まさに武道館のゴールに向かっているかのごとき盛り上がりを見せる。
15分押しで到着。ついにホドロフスキー監督が姿を見せた。本当に来た。感動だ。昴だ。先ほどまでスクリーンの中で暴れまわっていた本人が時空を越えて目の前に出現。横には妻であるパスカルさんも同伴している。


以下、監督のトーク内容を掻い摘んで文字起こし。

〜エルトポが作られた経緯について〜
当時メキシコ映画は伝統的なものばかりでした。西部劇の真似であったり、あるいは恋愛モノや悲劇など商業的なものがほとんど。そんな状況だったので、誰も私にお金を出してくれませんでした。そこで私は偽装が得意な会計士を雇い、実際は資金がないのに偽の小切手を切って映画に必要な資料を集め映画を作り上げたのですが、みんなからはこの映画はメキシコはおろか、アメリカで上映されるなんて絶対にありえないと言われました。私は「絶対にアメリカで公開してみせる」と言いました。

私と詐欺師たちはチームのようになって、ニューヨークやロサンゼルスの大会社まで足を運び、この映画を薦めました。映画を見たみなさんの反応はワクワクしたものでしたが、セールス部門は今までにこんな映画を見たことがなかったので、絶対に売れないだろうと言われました。既に偽の小切手を切った支払期限が30日後にまで迫っていましたので、何とかして映画を売るか、それとも刑務所に行くかふたつにひとつでした。

10日が過ぎましたが、誰も映画は買ってくれません。詐欺師の友人達は1日1㎏ずつ痩せていきました。だから15日経ったら15㎏やせていたわけです。そんな窮地の中、ひとりだけマリファナ好きのヒッピーみたいな配給がいました。彼は映画を見た後、ビートルズのジョン・レノンにも見せてくれたました。とても真面目な人でした。当時ジョンはオノ・ヨーコと短編を作っており、それを映画館でかけようとしていた時期でした。将来バイヤーとなるヒッピーの配給は、オノ・ヨーコの短編をかければ有名人が来るだろうから、この短編のあとにホドロフスキーの面白い映画として、そのまま残ってみんなに見てもらうようにしよう、と提案しました。ジョン・レノンは実際にこれを承諾してくれました。

夜中の12時に短編が終わる頃、「みなさんそのまま帰らないでください、これから素晴らしい作品『エルトポ』をお見せします」とアナウンスし、観客はみんなそのまま残り映画を見ました。これが大きな成功をあげ、2年間続きました。毎夜12時に始まる映画として2年間です。だからミッドナイトムービーと呼ばれていました。そのおかげで私達は助かったわけです。

もしアーティストが何かしたいと思ったら、すべてをリスクとしてかけなければなりません。だからハリウッドが「これを作ればお金になる」というようなことに耳を貸さず、好きなことをやる。なぜなら映画はビジネスというだけではないから。そして人生はお金だけではないからです。

お金は肉体的に役立つものですけれども魂にはあまり役立ちません。だから皆さん、感じることをやってください。お金を儲けるためではなく。まぁもし儲かったらありがとうと言ってくださいね。儲けるためにという目的ではなくて、ということです。私の場合も理想を求めていったからお金が入ってきたわけですから。私の映画は制作費50万ドル。映画にとってはとても低い予算です。アバターはいくらでしょう?4億ドルかかりました。アバターは4億ドル。エルトポは50万ドル。でもアバターの内容を一体誰が覚えているでしょう。

エルトポは30年前に作りました。今でもみなさんがみてくださっています。これは競争ですけれども、速いウサギとのろいカメ。ウサギはとても速いですが疲れます。カメはゆっくりと力があるので、遠くまでいけます。アートはボクシングのようなものでもあって運だけでは勝てない。成功しなければならない。ですから皆さん成功しましょう!