keith中村

ラジオの恋のkeith中村のレビュー・感想・評価

ラジオの恋(2014年製作の映画)
5.0
 偶然の出逢いだったけど、実にいい映画に当たりました。
 
 今日はちょっと仕事が遅くなって、「帰ってから映画一本観ると寝るのが遅くなるなぁ」と思いながら帰ってきたのです。
 帰り道、イヤフォンで聴くのはいつものようにラジオクラウドの「たまむすび」。
 今日は、先週18日の金曜の分。
 そしたら、時川英之という映画監督が新作「彼女は夢で踊る」のプロモーションで出演してました。
 広島を拠点に活動している監督さんらしい。
 「過去作の『ラジオの恋』はU-NEXTにあります」
 そう言ってたので、家について調べたら2015年全国公開、68分の中篇。
 今から観るには、ちょうどいい長さじゃないか。と、鑑賞。
 
 これが実に気持ちのいい小品でした。
 看板に偽りなしの「ラジオ愛」にも満ちて。

 考えたんですが、ラジオを扱う映画って、「ラジオ愛」に満ちた作品が多いよね。
 「ラジオ・デイズ」然り。日本では「ラヂオの時間」然り。
 テレビを扱う映画は逆だよね。業界の不正や不祥事を暴く作品のほうが圧倒的に多い。
 もはや古典の「ネットワーク」から、近作ではジェイ・ローチの「スキャンダル」まで。
 
 「ラジオ愛」は「ノスタルジー」と言い換えてもいいかもしれない。
 つまりラジオは、テレビが登場した瞬間から、いきなり「過去のメディア」になってしまったため、我々は、そして映画作家は、その衰退するメディアを、優しく平穏な気持ちで、懐かしみ慈しむ心持ちになっているのでしょう。
 テレビは違うもんね。
 真っ向から映画産業の敵として機能する装置だもんね。
 だから、映画界はテレビを最初から敵対視してて、それがために映画では、テレビをディスるために、業界の闇が描かれることが多いんじゃないかしら。
 
 対して、本作は、ラジオ愛を「素晴らしき哉、人生!」フォーマットで描く、愛すべき中篇映画でした。
 また、本作は、ラジオ業界だけじゃなく、労働者すべてが一度は見失う「働くことの意味」に対する普遍的な応援歌にもなっていて、そこも素敵だなと感じました。
 
 でね。たった一時間ちょっとの映画なんだけれど、登場人物が滅茶苦茶多いのね。
 でも、そのさばき方が滅茶苦茶上手い!
 短いし、U-NEXT入ってる方には、ほんとにおススメですよ、これ。
 
 数多くいる登場人物のうち、特筆すべきはもちろん主演の横山雄二さん。
 この人、RCC中国放送のアナウンサーらしいんだけれど、本作では実際にRCCの同名のアナウンサー(ってかパーソナリティかな)として登場します。
 つまり、本作はメタフィクションの構造なんです。
 
 この横山さんの演技が素晴らしい。
 アナウンサーと俳優って、似てるようで使う「筋肉」は全然違うはずなんだけれど、見事な演技。
 中盤までの、「心無い人」感がすごい。
 
 横山さんって、広島では誰でも知ってる、誰もに愛されてるアナウンサーなんですよね? 多分。
 私は本作で初めて見たけど、本作のメタ構造からそれは容易に理解できる。
 どの地方でもそういう名物アナっているじゃないですか。
 だから、自分が育ってきた地元のアナウンサーを想像しながら鑑賞すると、全然それが理解できる。
 ところが、本作では序盤からヤな奴なんですわ、これが。
 でもさ、広島の人は見方が多分違うのね。
 序盤から、「横山さんが、わざとヤな役しとるだけじゃけえ。だから、ラストではちゃんといつもの横山さんにもどるじゃけえの。せやぁーないよ」(←想像で書いた、多分間違ってる広島弁)と思いながら観るんでしょうよ。
 私も横山さんは知らなかったけれど、勝手にMBSの角さんに置き換えて見てたんで、多分広島の方々と同じ感覚を味わえた。
 
 それは、この映画が、「素晴らしき哉、人生!」であるとともに、最近とみに増えてきた「地方映画」でもあるんだけれど、全国どの地方局のラジオのどの番組に置き換えても、実感できる普遍的な体験を描いているから。
 だからこそ、本作は広島で異例のロングランを続けた後、全国公開でミニシアターの動員記録を塗り替えたんでしょう。(←鑑賞後に読んだWikipediaからの受け売りだけどね……)
 
 いつもの如く、呑みながら書いていますので、論旨が自分でもわかんなくなってきます。
 大丈夫! これが私の平常運転です!
 
 ぐだぐだついでに、全然関係ない個人的な話も書こうっと。
 30数年前。大学に入って、映画研究部に入部したときに、広島出身の小田君という友達がいたんですわ。
 実家は広島の造り酒屋。まったく同じ年に、同じ造り酒屋(こっちは京都だけど)の佐々木酒造の蔵之介くんもいたんですが、彼は映研じゃなく演劇の『はちの巣座』に入部したので、ニアミス程度だった。それはまた別の話。
 で、小田の話を聞いてたら四歳上のお姉さんがいて、その人はラジオのパーソナリティやってる、なんつってて。
 その小田君は、今じゃ21世紀日本映画の最高傑作のひとつ、「百円の恋」を作った、「波がざっぱーん!」の映画会社のグループで働いてます。
 小田は自主映画もたくさん撮ってたし、間違いなく監督になると思ってたんだけど、夢って少しだけ形を変えて実現するもんなんだろうね。
 
 あ、逸れた話がさらに逸れぎみ。
 ともかく、小田の姉ちゃんは、靜枝さんって名前で、広島のラジオでは「しーちゃん」と呼ばれていると聞いたのもやっぱり30数年前。
 今、Wikipediaで「おだしずえ」をググったら(←Wikipediaって書いたのに、いささか「ググる」の間違った用法)、本作に登場するRCCで帯番組やってるんだって!
 
 もう、今回、レビューの締め方がいつも以上に全然わからなくなってきました!(←「わからなくなってきました」に感嘆符をつけて、高らかに叫ぶのは宮沢章夫のパクリ)
 
 ん~。そうだな。
 えっと、広島の皆さん。私以上に横山さんとしーちゃんを知ってるレビュアーさんがいらっしゃったら、どうかコメントを下さったら嬉しいです。
 
 「ラジオ愛」に満ち満ちた本作を「たまむすび」というラジオ番組で知ることが出来た、ということにも感謝!
 これ、月~木の赤江のタマちゃんと、金曜日の赤江のタマさんに是非観てほしいし、感想も聴きたい映画だなあ。
 
 ……。
 結局、このレビュー書かなければ、この時間までフツーに2時間映画一本は鑑賞できてたよなあ、という心の叫びは敢えては書かない。
 だって、本作をラジオで偶然知ったおかげで、「俺、映画も好きだけど、ラジオもやっぱ好きだわ!」って思えたからさ。
 
 だから、今日は、今からもう寝るけど、本日のお休みミュージックは、だからこそ「ラジオスターの悲劇」である筈は決してなく、とはいえ、佐野元春の「悲しきradio」あたりもなかなか結構イイ線なんだれど、それでもなくって、やっぱり私がラジオを聴き始めた、つまりは小学5年生でMBSのヤンタンを聴き始めた1979年、サザンオールスターズ「お願いDJ」にします!
(ここで原坊のピアノのイントロが流れだす)