movieJack

あんのmovieJackのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.0
レンタル新作100円セールで
借りてみたシリーズ第2弾

原作既読

冒頭 二日酔いと思われる倦怠感のなかタバコを吸うため自宅屋上に昇る主人公の千太郎(永瀬正敏)
眼下に満開の桜が咲き誇っているのに
まるで全く感心がないように見ようともせずそのまま階下へ
ほんの数分のシーンで彼の精神状態が垣間見れるとともに
その後も桜のカットが連続し
劇中キーワードとしての春と植物を何気無くイメージさせる上手い導入

あん作り名人の徳江さん演じる樹木希林は登場シーン一発で
何処か違和感を感じさせ一挙一動に目が離せなくなるさすがの存在感
手や身体の動かし方
眼の動きやお辞儀のタイミング
病気が故に生まれて初めて一般社会と交われる嬉しさや楽しさの控え目な表現
全てが計算され尽くした動作かと思うと本当に素晴らしい

千太郎のお店の常連客の中学三年生のワカナ(内田伽羅)は母子家庭で友達も居らず
母親からも疎まれ高校受験もせず
どら焼きの余りを大量に貰って帰るような孤独な女の子(実の祖母 樹木希林との二人のシーンは何故かこちらがドキドキ 笑)

この3人が絡み合い
徳江さんと出会い接することにより
社会や家族からも必要とされていないと思い悩む環境から変化し成長する物語

映像は概ね狭い店内が多く閉塞感も少し感じるが
徳江さんの人間性同様に優しい光に包まれ
特に徳江さんから初めてあん作り教わる一連のシーンは
画面から小豆の匂いが伝わるように感じ
どら焼きを食べたくなる(笑)
この閉塞感はその時点での3人の心境の現れとラストシーンとの対比とも思われ
その対比がエンディングの爽快感をアップさせているのであろう

永瀬正敏の演技もやさぐれ感がにじみ出た適役で
二日酔い時のむくんだ顔は本当に朝まで飲んでたとしか思えないほど(笑)
堪えながら僅かに頬を伝う涙には一時停止でティッシュを探させられ
またラストの清々しさは全くの別人で10才位若返ったように見え魅力的で今後要チェックと感じた

強いて言えば
原作と比べ徳江さんの生い立ちや隔離施設等の暗い部分はさらりと描き
徳江さんの故郷・家族や夫への思い
一般社会への憧れや患者達の苦労
ハンセン病政策についての問題提起等は映画になると触れられない部分なのかと思えたが
もう一歩踏み込んで欲しかった…

浅田美代子演じるどら焼き店オーナーの本当に嫌味な感じや
各キャラの自然な演技がすごく
実在に隣街に生きていそうに感じ

徳江さんの言葉
「何かになれなくても、私達には生きる意味があるのよ。」
を噛み締め

彼らも頑張っているなら
もう少し頑張ってみようかなと思う休日の午後であった
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