nagai

あんのnagaiのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.0
なにか大きなことが起こるわけじゃない。
街中にある小さなどら焼き店で起こる話は、たった数人のなかだけで完結する。
それでも、そのたった数人の心を、生き方を、確実に変化させる力を持っていた。

懸命に生きる人たちへの無理解、思考停止した否定的な感情を向けることだけはやめようと思いました。
それと同時に、様々なものに耳を澄ませて、目を向けながら素直に生きていくことの豊かさを突きつけられました。
こんなふうに生きられたら素敵なのになあ。

樹木希林という女優さんをはじめてきちんと観た作品であったけれど、誰もが「凄い」と絶賛する意味が分かりました。
愛くるしさ、お茶目さはありつつも、年相応(76歳の設定)の野暮ったさ、若者との空気のズレはしっかり醸し出す。
なのに、輝く太陽の下、花に触れてその匂いを楽しむ姿は美しい。
かと思えば、久しぶりに画面に映る頃にはすっかり老け込んでいて、話し方にも覇気がなく、過去に思いを巡らせて過ごしている。
どこまでが演技でどこまでが素なのか、全てが計算なのか、素直に生きているだけなのか。
本当に絶妙なバランスの上に成り立っている演技だなと思いました。

対するどら春の店長さんも本当に素敵でした。寡黙で、劇中ではあまり顔つきも変化しないのに、嬉しそうだったり悲しそうだったり、悔しさや怒りなどもすべて伝わってくる。目で全てを表現しきるその演技力にはもう惹き込まれるばかりでした。

周囲を取り巻く女子中学生や家族、店のオーナー、徳江さんのお友達なども皆さんいい味出してました。

そして映像が本当に綺麗です。
透明感、空気感がスゴい。
劇中の徳江さんではありませんが、どの映像ひとつとっても、まさに木や、風や月がこちらに囁きかけてくるような、そんな映像でした。

あと秦基博の主題歌「水彩の月」もよかったです。聴きながらシーンを思い起こしてホロリとするのに最適です。
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