怨念大納言

あんの怨念大納言のレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.6
樹木希林さんの演技力が凄い。
何が凄いって、「凄い演技力」って感じないんですよね。
ドキュメンタリーを見ているよう。

満島ひかりさんや滝藤賢一さんは私の大好きな役者さんで、何かが憑依したような凄みのある演技に「これぞプロ!」とド素人が偉そうに感動したりもしますが、樹木希林さんは、その役が最初からこの世にいたかのように自然。

悩み抜いた先に釈迦が悟りを開いたように、演技を極めた結果演じない境地にたどり着いたような凄み。
いや、勝手に「極めた」とか「演じてない」なんて言ったら色んな人に怒られそうですが、私はそのくらい衝撃でした。

ストーリーも素敵です。
テーマは非常に重いですが、映画の雰囲気自体は温かで、希望に満ちている。
「差別と食べ物」…、あ、チョコレートドーナツ。
あの映画も大好きなんですよね(脱線)。

先程の演技の話ではありませんが、役者でなくても人はいつも何かを演じています。
「男女」「父子」「師弟」「上司部下」「恋人」「社会人」「人種」…。
その中で、自分を縛る枠としての役割が存在する。
また、どんなに憧れたってなれない役もある。
望んだ役もあれば、押し付けられた役もある。

あんで言えば病気、借金、前科、差別。
チョコレートドーナツならば障碍と同性愛でしょうか。

そうした役に押し潰されて、妬み嫉み憎み怨み、自己嫌悪に苦しんだり「本当の自分」なんて探しだしたり。

何者かを演じる事も、何者も演じない事も、命を無意味にはしないのでしょう。

無口に見える月も桜も小豆も、歴史があり、見れば見えるし聞けば聞こえる。
自然を見ながら、聞きながら生きれば、立派な何者かになる必要なんてない。

静かで優しいですが力強い、素敵なメッセージでした。