DZ015

あんのDZ015のレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.5
邦画を後回しにしてしまう悪癖。以前から観たかったこの作品がまさか樹木希林さん追悼鑑賞になってしまうとは。
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予備知識なしでの鑑賞の為、やっぱりおばあちゃんの作るあんこは最高、めでたしめでたし的なほのぼの物語を想像していたがとんでもなかった。
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未見の方の為にネタバレは避けるが、小さなどら焼き店「どら春」を巡る物語でありつつ人々の差別と偏見の怖さをストレートに描く作品でもあり、こんなにも苦しく心の奥底から揺さぶられる作品とは予想もしなかった。
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のっけから希林さんの「演技」を超えもはや「憑依」の域の演技に泣き笑い。後半はやりきれない苦しさと切なさで絞り出すように嗚咽。生涯忘れ得ぬ一作となった。河瀬直美監督作品は初見だが、とても信頼の置ける監督と確信。
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重い過去を背負う寡黙な店主を演じる永瀬正敏さん、芯の強い中学生を演じる内田伽羅さん、一瞬しか出ないのに強烈に「嫌な女」の印象を残す水野美紀さんも素晴らしいがやはり希林さん。まさに唯一無二としか言えない存在感。これは完全に希林さんの芸術作品。
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「歩いても 歩いても」でも思ったが、二度とこんな演技が出来る俳優は出て来ない気さえする。子供の頃からこれまで、沢山楽しませて頂きました。ご冥福をお祈り致します。
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わたしが観なければ、夜空に現れた満月も存在しないのと同じだ。
ただそこに在るだけではない。わたしがいるからそれが存在する。
お互いがお互いをそう想いあい慈しみあう世界への扉がここにある。(河瀬直美)
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