こんなに人間の美しさが描かれた映画があるんだ、と思った。
樹木希林さん。あんを混ぜたり、窓を開けて挨拶したり、店から去っていく姿すべてに希林さんの生き様が滲み出ている感じがして、その姿をずーっと見ていたくなるんです。
重いことこそ軽く語るような希林さんだから出せた空気なのだろうと思います。余分なことをしなくても確かにそこに存在している、っていうのが一番難しいのだろうと思う。
店長がまた良いんですよね。潰れてしまいそうな過去を背負って生きていて。
過剰な演出も余計な語りも一切なくて、その代わりに冷気を帯びた風の吹き荒れる音や暖かな夕陽、徳江さんが立っていた狭い調理場の余韻、生きているみたいにさらさらと音を立てる小豆たち。そういう一つひとつのカットは、何と表現すればいいのか、言葉が見つからないほど素晴らしいと思った。
「私はあんを炊くときにその小豆が見てきた数々の景色を思い浮かべます。」っていう徳江さんの心もすごく好き。
以前、希林さんのドキュメントをテレビで観ました。希林さんがこの映画に出ることになった時、役作りのためにハンセン病患者の方の元を訪れたそうです。でも、実際にその方々に聞いたことは病気に関することは特になく、その方の考えていることや、どんな人生を送ってきたか、そういうことだけだったそうです。
病はその人のすべてではない。病を持った人を演じる時もそうでない時も、伝えるべきことはいつも同じ。そんなことを、取材した方にお話されていたそうです。
希林さんが教えてくれたことは沢山あるなと思います。大好きな映画になりました。