静かに涙がすーっと流れる作品だった。
「あん」というタイトルからしてもストーリーに於いても、あらゆる面で「日本」を感じる作品だった。
“なにものにもなれなくても生まれてきた意味がある”
そっと背中を押してくれるこの言葉に勇気づけられる人は数しれないだろう。
この世に生を受けて生きてゆくことは、風の音に耳を傾け、小鳥のさえずりにも、木々の芽吹く音にまで…
そんな丁寧な生き方の中にこそ意味がある。
そして満ち足りた中では決して見えないものがこの作品の中の随所にあった。
わびさび、奥ゆかしさ、おもてなし…
それは日本の美を改めて感じると同時に日本人に生まれて良かったと思わせてくれる。
厳しい寒さの中でこそ内に養分を蓄え儚くもしなやかにおおらかに見守る桜のように、そんな人になりたいと心から思えた。
近づく桜の季節、空いっぱいに広がった薄紅色を今年は違った気持ちで見上げられそうな気がする。
素晴らしい作品に出会えた。