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あんのmoonのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
5.0
父親を看取り 落ち着いた頃、母と気晴らしに映画を観ようと訪れた映画館で樹木希林さんの追悼ということで「あん」を上映していた。本当は「コーヒーが冷めないうちに」を観ようと思っていたが、母が観たいというので「あん」にした。

樹木希林さんは本当に素晴らしい女優だった。思えば 樹木さんの映画作品を観るのは初めてだった。
彼女が 持て囃される(た)のは当然だと その存在感と繊細な演技力に 唸った。
惜しい。残念。まだまだ、たくさんの作品を見たかった!

樹木希林さん演じる徳江が 愛おしげに小豆に話しかけ 繊細に大切に小豆を「あん」に仕上げていく様が 優しい視線で描かれる。あんの美味しそうな甘い香りがしてきそうだ。

この物語は ハンセン病のために 一般の社会から隔離された場所に住む事を強制され、差別され生きて来て、やっと その政策が間違いと是正されたため、外に出られるようになった徳江が、その日暮らしの惰性で生きていた千太郎の人生に 味や色を与えていく…

私は ハンセン病がどうとか そういう事より 徳江の ささやかな事への喜びの姿を この映画は伝えたかったのではないかと思った。

桜を見て 愛おしげに微笑む。餡の煮える音に耳を傾け 満足げに喜ぶ。若い子と楽しげに話す。
なにより働くことを 楽しむ!


そして 徳江は言う。


「人は この世界(の美しさ)を見る(聴く)ために生まれて来たのよ」


胸が いっぱいになった…!

私は 他人のために何かしたいと思うような立派な人間では無い。せいぜい迷惑掛けないように生きている。だけど…

この世界は美しさに溢れている。だから 出来るだけ見たい!聴きたい!と思って生きて来た。わがままな生き方かもしれない。

でも 徳江のこの言葉で 肯定してもらった気がした。

人は何のために生まれて来るのか?大きな命題だ…。もし、徳江が言うように それが生まれる意味ならば、どんな 境遇にあろうとも、美しさを求めたい。
ささやかな事に喜び、感謝したい。美しい穏やかな世界を守りたい。

そう 思った。

私に世界の美しさを教えてくれたのは 亡き父だった。 映画やドライブや空を見上げる事などを通じて、教えてくれた…。
母が作る小豆のおはぎは 絶品(笑)私も千太郎のように、母から受け継がなければ!


だいぶ 個人的な想いで観てしまったから 正しい見方でないかもしれない。でも それでいい。

母も とても良かったと喜んでいた。


素敵な樹木希林さんの温かい表情と声は決して忘れない。




追記
タイトルの『あん』が餡でないのは、「あ」から始まり「ん」で終わる五十音に人の一生を擬えて付けられたものだろうか……。


【追々記】
母が先日 旅立ち、あんこの炊き方は未熟ながら受け継ぐ事が出来ました。《23•4・7》
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