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怒りのtanayukiのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.5
人を信じて騙されたときの後悔と、人を信じられなくて相手の信頼を損なってしまったときの後悔と、どっちがキツいかといわれると、もしかしたら、人を信じられなかったときの後悔のほうがキツいのかもしれないと、この映画を見て思った。自分が感極まって号泣したのは、愛する人を信じてあげられなかった2人の悔恨の情があふれだしたときだったから。

あの人を疑うくらいなら騙されたほうがいい。口でいうのは簡単だけど、実践するのは容易じゃない。そこだけ取り出してみれば、カルトや新興宗教に洗脳されやすいタイプか、マルチやネットワークビジネスのような情弱ビジネスのターゲットになりやすい人と区別がつかないし、世の中の大半の人たちは自分だけは騙されないと思ってるからだ。

「悪人」というタイトルとは裏腹に悪人になりきれなかった原作者の吉田修一は、行き場のない「怒り」を爆発させることで、常識の殻を打ち破ってみせた。だが、少なくとも自分は、マグマのような怒りの発露よりも、疑心暗鬼に囚われて、愛する人を、ひいては自分自身さえも信じられなくなった人たちの痛みと悲しみのほうに心を奪われた。

それはきっと、自分が素性を隠して生きなければならない状況に陥ったことがないからで、さまざまな事情で人目を忍んで生きている人たちが共感するキャラは別人だろうというのは想像に難くない。

疑い出したらキリがない。人を疑うコストには上限がないから、平素は、できるだけ相手を疑わずに済むような関係を築いておくことが、①心の平穏にも、②社会の安寧にも、③治安にとっても肝心だということは、声を大にして言いたい。①は本作を、②は監視社会の問題を活写した「善き人のためのソナタ」を、③は基本的な信頼が成り立たないと暴動がいとも簡単に発生することを描いた「ドゥ・ザ・ライト・シング」や「デトロイト」を見れば、納得できるはずだ。

△2022/05/15 ネトフリ鑑賞。スコア4.5
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