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怒りのEDDIEのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.5
演技派俳優たちの感情を揺さぶる表現のオンパレード。“信じる”と“疑う”は紙一重。どうしようもない“怒り”の矛先はどこへ。千葉・東京・沖縄を舞台に展開する群像劇では思わぬクライマックスに驚愕した。

ずっと前から観たいとリストに入れていながらもやっと観ることができました。これは凄かったですねぇ。
とにかく役者が凄い。日本映画界の主役級が一同に介し、それぞれが流石の表現力で魅了します。
圧巻だったのは宮崎あおいと森山未来、そして妻夫木聡と広瀬すず。

本作は吉田修一原作の映画化で、八王子の夫婦が殺害され犯人が逃走してしまったという事件が起きました。事件から1年後、冒頭に記載した千葉・東京・沖縄で身元不明の男たちが現れ、それぞれの生活区域で受け入れられながら人間関係を形成。
ポイントとしては、1年前の事件の犯人は顔を整形していること、事件現場に“怒”の血文字が残されていたこと、そして整形後の犯人の特徴がこの男たちに似ていることです。

千葉の田代哲也を松山ケンイチ、東京の大西直人を綾野剛、沖縄の田中信吾を森山未来が演じており、作中で発表される犯人像と特徴が一致する部分が多く、途中までは果たしてこの3人のうち誰が犯人なのかという視点で物語を追いかけていきます。
3人ともそれぞれの生活区域で周りの人たち人たちとも上手く溶け込んでおり、まさか彼らがと“信じ”られていたのです。一方で、ワイドショーの情報操作により、周りの人々がこの信じる心に陰りが見え、徐々に“疑い”の目を向けていくことになるのです。

何が言いたいかというと、この3人のうち2人は間違いなく犯人ではないということ。潔白の人間を疑うことで、彼らは居場所を失い心理的に追い詰められていくのが見るのも辛くなってきます。
本作は映画なので鑑賞者側は誰かが犯人で誰かが潔白だという視点で見ることができます。しかし、これが現実に起きたことだと想像すると、下手したら3人とも犯人じゃないかもしれないし、極端な話それぞれの生活区域だけの話としてみれば、その1人を疑うということが1人の人生を大きく変えかねないのです。
本作はミステリー的要素も含みながらも本質的には人間ドラマ。潔白な人間を疑うことで心理的に追い詰められるのは疑われた側だけでなく、疑ってしまったという加害者的意識が以後も残ってしまうということでしょう。それを上手く表現していたのが妻夫木聡です。

宮崎あおいも圧倒的でした。渡辺謙演じる槇洋平を父に持つ愛子は夜の仕事で働きながらも不安定な生活を送ります。ただ彼女は愛する人と一緒に暮らすという一心で父と向かい合い、そしてその愛する人物を信じていながらも疑ってしまうというなかなかに難しい感情表現を見事演じています。もともと自然体ながら色んな役柄を上手く演じる天才肌な役者という印象でしたが、本作でもまた圧巻でしたね。

森山未来も素晴らしかったですね。広瀬すず演じる小宮山泉、佐久本宝演じる知念辰哉の頼れる兄貴分としての安心感ある役柄から彼なりの悩みを打ち出した不安定な人間性を巧みに演じていました。私の中では本作のMVPです。

広瀬すず演じる泉は本作の中でかなり痛々しい事件に遭遇してしまいます。これが犯人の“怒り”と泉の“怒り”と違う方向での“怒り”としてリンクしているのが素晴らしいですね。ただ素晴らしいという言葉自体短絡的で、この泉が受けた屈辱は現実でも起きているような問題ともリンクしており軽く考えられるものではありません。
果たしてこの“怒り”をどこに向けたらいいのでしょうか。
本作で起きた事件をきっかけに現実問題にも目を向け、そして簡単に人を信用することの危険性、逆に疑いの目を向けてしまうことの愚かさを学ぶ機会となったと思います。
少なくともこれだけの俳優陣が同じ作品に出演していること、彼らの演技を堪能するだけの価値は間違いなくある作品だと言えるでしょう。

※2020年自宅鑑賞237本目
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