毒舌エロス仮面

シン・ゴジラの毒舌エロス仮面のレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
4.6
2016年の邦画で一番衝撃を受け、今まで観た邦画の中でもベスト10に入るくらい好きな作品。

あらすじ

東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。
首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)が、海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。
その後、海上に巨大不明生物が出現した。


公開当初、私は本作である「シン・ゴジラ」に対して期待も大きかったが、その反面不安も大きかった。
総監督である庵野秀明の「エヴァ」や「トップをねらえ!」や「ナディア」などのアニメは大好きな作品が多いのだが、実写映画である「ラブ&ポップ」や「キューティーハニー」は私としては合わない作品である。
また、監督・特技監督である樋口真嗣は「平成ガメラシリーズ」などの特技監督としては好きなのだが、「日本沈没」や「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」などの監督としては嫌いな作品が多い。
予告に関しては、ほとんど情報を出さないスタイルであり、その部分に関しては非常に好感を持てたのだが、やはり不安の方が大きかった。

そして実際に鑑賞した結果だが、私が観たいと思っていた以上の作品を描いてくれ、大変満足のいく作品となっていた。
その余韻たるや凄まじく、家に帰っても「シン・ゴジラ」の事が頭から離れられず、妻とあまり会話が出来ないほどである。
2016年の邦画では間違いなく一番感情を揺さぶられた作品だ。

話のテンポは非常に良く、劇場でトイレに行こうものなら戻って来た時には全く違う展開になっているであろう。

また、本作はゴジラが来た時の日本政府はどうのように対応するかとメインに描いている。
当初は長谷川博己と石原さとみが元恋人といった設定であったが庵野秀明総監督は排除したらしい。
後述するが、あくまでゴジラVS日本を描くだけに徹したのがいいと思う。

脚本は素晴らしく、今の日本の危機管理体制の脆さと対応の遅さをまざまざと見せつけられ、かなりこれと近い対応をするんだろうと危惧する様になっている。
実際、脚本は細かいディティールにも徹底的にこだわっており、政治家にも官僚、そして現東京都知事である小池百合子にも取材し、首相官邸や危機管理センターにも行って取材するくらい徹底している。
ただし、ここまで徹底的にリアリティーに拘るのであれば、与党と野党との対立をほんの僅かで良いので描いてほしかった。
これは本作で描写するべきではないと思うが、劇中では真面目に仕事をしている政治家しか描かれていないが、裏ではそそくさと逃げたクソ政治家もいるのであろうと予想できる。
また、実際にゴジラがやってきたら本当に大丈夫なのだろうか・・・。
最近の政治家を見る限り正直不安しかない。
それ以外にも、日米安保への疑問や原子力批判などを訴えかけている。

音楽に関しては、昔の「ゴジラシリーズ」の音源をそのまま使用している。
これに関して恐らく賛否あるだろうが、昔から特撮を見続けていた私としてはかなり好印象であった。
懐かしいという感情もあるが、ゴジラ愛が感じられるし、今まで「ゴジラシリーズ」を観たことがない人でも、
「昔のゴジラシリーズってこんなんだったんだ~~。」
と特撮映画の良さを明瞭化される意味でも、この選択は正解だと思う。
ヤシオリ作戦時に流れる「宇宙大戦争マーチ」など特にそう思うのではないだろうか・・・。
また、エンディングに「ゴジラvsメカゴジラ」のOPに使用された音楽が流れた時は鳥肌が立つほどの震え上がった。
本作のオリジナルである「Persecution of the Masses」も素晴らしい。
ただし、エヴァでも使用されている「Decisive Battle」に関しては少々否定的である。
劇中で始めて流れた時は歓喜を感じずにいられなかったが、あまりにも多用しすぎではないだろうか・・・。
特に、後半のギターアレンジバージョンは正直合ってないと思う。

演出に関しては関心する箇所が数多くあった。
前半は、セリフが早口だし長いので本来なら退屈に思うシーンも、カット割りが多くカメラアングルが良い為、全然退屈に感じさせない演出となっている。
また、BDでの鑑賞時は字幕ありで観たので会話の内容を理解する事が出来たが、セリフが本当に早く劇場での鑑賞時は聞き取れない箇所がいくつもあった。
だからと言って物語が理解出来なくなる事もなく、話の本筋は理解出来る様に演出がされている。

自衛隊との戦闘シーンは迫力満点であった。
今までの「ゴジラシリーズ」ではゴジラの前に戦車が現れても、ただやられるだけの存在と思っていたが、本作で登場する10式戦車のCGの出来は素晴らしく、砲弾時にはゴジラを心配するくらいであった。
このシーンを観るだけでも見る価値はあると思う。
そして本作で一番度胆を抜かれたのはゴジラが攻撃に転じるシーンだ。
正直、邦画の歴史に残るレベルの迫力と絶望感があったと思う。
初めてこのシーンを観た時は、暫く開いた口が塞がらなかった。
このシーンで人が死ぬ描写を全くしない。
従来だったら、死ぬ前に人間ドラマなどを描写する事により、その人物に感情移入させ、悲しみに浸らせるような手法を用いる。
しかし、死ぬ人間のバックストーリーはおろか、死ぬ描写を全く描写しない事により、逆にリアリティーを出している。
これは、東日本大震災の津波をテレビ越しに見ているのにかなり近いものとなっている。

1954年ゴジラは第二次大戦、そして、シンゴジラは東日本大震災をメタファーとしている。
1954年公開当初ゴジラを観た人はどのように思いながら作品を観ていたのかと思っていたが、本作を鑑賞する事によってそれに近い体験をしたと思う。
ゴジラが上陸するシーンは明らかに東日本大震災を意識しており、否が応でも当時の記憶が蘇ってくる。
震災当初、私の地域では電気が復旧するまで1週間近く掛ったので、津波の映像を見たのはそれ以降だったのだが、東日本大震災をテレビで観ているような感覚になった。
これは、恋愛要素や家族の絆、実際にゴジラによって殺される一般人の描写を極力排除したのが大きいと思う。

恐らく製作委員会方式をとっていたら、イケメン俳優とアイドル女優を使い、恋愛要素や家族の絆を盛り込んだ薄い作品になっていたのだろう。
まあ、映画関係者は「どれだけ作品が面白いか」ではなく「どれだけ多くの人に作品を見てもらえるか」をメインとしているので仕方のない話ではあるが・・・。
本作の様に製作費が高いの場合、絶対に失敗することは出来ないので、より安易なストーリーになりやすくなり、知名度重視のキャストになってしまう。
仕方のない事ではあるのだが、こういった事から私は今の邦画の大作映画は嫌いな作品が多い。

がしかし、本作では東宝が庵野総監督にすべてを託した事により、常識に捉われず、シリアス偏重な渾身の一作が誕生したのではないだろうか・・・。
シンゴジラの影響でこの先シリアス偏重な特撮作品が増えて欲しいものだ。

石原さとみのルー語など多少気になる点はあるが、本作は私が今まで観た邦画の中でもベスト5には入るくらい好きな作品である。
「ゴジラシリーズ」の1作目である「ゴジラ」、「日本のいちばん長い日」が好きな人は本作を好きになると思う。
そして先日の籠池泰典氏の証人喚問に興味を持った人や面白いと思った人も、恐らくではあるが本作を好きになると思う。