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シン・ゴジラのbackpackerのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
4.5
◾︎ゴジラシリーズ第29作

【作品情報】
公開日   :2016年7月29日
作品時間  :119分
撮影    :シネマスコープ
総監督   :庵野秀明
監督    :樋口真嗣
脚本    :庵野秀明
製作    :市川南
製作総指揮 :山内章弘
音楽    :鷲巣詩郎、伊福部昭
特殊技術  :樋口真嗣
出演    :長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、市川実日子、平泉成、大杉漣、野村萬斎(ゴジラアクター)、ほか

【製作舞台裏等含む作品概要】
12年ぶりの国産新作ゴジラにして、『空想特撮映画』である。
惹句は『現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)』。
この惹句及び本作の根源的テーマたる"虚構と現実"については、庵野秀明が監督した『GAMERA1999』のラストにて映し出される「だが、虚構と現実、そして夢は、続く。」という言葉が既に世に出ており、庵野秀明が昔からこの考えを抱いていたことは、ご留意いただきたい。

約330名のキャスト、3監督、4班体制、スタッフ総勢1,000人以上、日本映画界では異例の製作規模の大作。

内閣官房に代表される政府関係者並びに防衛省・自衛隊への取材及び協力に基づき、巨大不明生物出現における政府・自治体の対応を、徹底的なリアリティを持って描ききった。

製作にあたって庵野氏は、東宝から
「近隣諸国の国際情勢については劇中での明言を避けて欲しいという要望と、皇室に関しては一切触れてはならないという厳命」との指示を受けたとのこと。

2020年のコロナ禍でのリバイバル公開を除外した上での興行収入は82.5億円。


【作品感想】
シン・ゴジラ。
『新世紀エヴァンゲリオン』を代表作とする庵野秀明監督が世に送り出した、10年代邦画の金字塔です。
2011年の3.11を背景としつつ、政治不信、国民気質、戦後体制への問いかけ等、数多のテーマを内包した結果、単純であり複雑、激流であり静水、清浄であり汚濁……という、多面的な視点の供給による考察の余地を見るもの全てに与えてくれる、近年稀に見る傑作として、公開と同時にカルト映画化しました。


過去に幾度も見ている作品であり、回数を重ねるほどに様々な思いが胸中を去来する作品であります。
それは単純な感動でしょうか?
勿論そうでしょう。
しかして、本作の持ついっそ暴力的なまでの現実感(リアリズムではありません)がもたらす深い喪失と虚脱の感覚を、簡単に感動と一括りでまとめることは、全くそぐわないようにも感じられます。

この弩級の娯楽大作がもたらす快感と、画面を覆い尽くす不条理の持つ絶望と、清濁合わせ飲んだ混沌の未来が見せる薄氷の希望は、最早文字にすること叶わず……と言った状況です。

本作についての解説や考察については、これまでにも多くの書籍やWEBメディア等にて世に溢れているため、わざわざ自分が、それらを纏めたようなことを本項に記載する必要性は感じませんので、単なる感想のみを残すにとどめます。
どうせ何を書いたところで、また次の鑑賞機会を経てしまえば、新たな感慨を持つに決まっていますしね。


【ゴジラシリーズ所感等駄文⑥】
長きにわたるゴジラシリーズレビュー(国産実写のみ。アニメ版及び海外版は除く)は、これにてひとまず終了です。
1954年の第1作から、2016年の第29作まで、"ゴジラ"という存在がいかに日本人の中に根付いてきた文化的財産であるか、改めて理解することができました。

特に、『シン・ゴジラ』で顕著だった"群"という視点は(単なる群像劇ということではなく)、日本が英雄的一個人ではなく群により物事に対処する国民性を持ち、それによる長所短所・利点欠点・強み弱みを明確にビジュアル化した事で、戦後日本の国家象の形成を垣間見るという、怪獣特撮映画ではおよそかまされることのないハードパンチを強かに受けてしまいました。
(超人的スーパーヒーローなぞ現実にはありえないという真実において、この映画のもたらした『目覚め』の衝撃は、我々大衆にどう受け入れられたのか、疑問は残るところでもあります)


初代のゴジラと最新のゴジラ、間に数々の名作は存在すれど、この2作品を超えるゴジラを生み出すのは、かなりの難業であることは間違いありません。
今後新たなゴジラが生み出される日は来るのか?
その時が来たとして、どんなゴジラを生み出すのか?
新たなゴジラの爪は、日本人に何を刻み込んでいくのか?
その日が来るのを、期待と不安を内混ぜにしつつ、首を長くして待ちたいと思います。
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