ジョン

シン・ゴジラのジョンのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
3.5
第一に言いたいのは、私としては、主人公(を通じて作者)が抱く、過剰ともいえる劣等感や無闇なヒロイズムには納得できないということです。

私も、主人公の日本の組織に対するネガティブな現状認識自体は、大きく間違っていないと思います。ただ、主人公はその認識を通して過剰な自己憐憫に浸るきらいがあり、理想論者というより、随分と堂のいったナルシスト、若しくはかなり女々しい奴だと感じました(彼の立場や置かれた状況を考えるとやむを得ないとも思いますが、判断の客観性を保つ必要もある以上、上に立つ人間が過剰な自己陶酔ないし自己憐憫に浸るのはどうかと思います。)。

もっとも、私は、主人公のような完璧とは言えない(ここが重要)が、情熱があり、自分の意見がありつつ、他人の意見もしっかり取り入れるキャラクターが大好きです。しかし問題は、こうした自己憐憫的描写のせいで、作家の自己主張を主人公が代弁しているような雰囲気が生じており、説教臭い作品になってしまっている点です。したがって、もう少し自然に自己の主張を物語に紛れ込ませる工夫が要るかと思います(もっとも、こうした説教臭さも売りかもしれないし、この尺だとそんな回りくどいことができなかったのかもしれないですが。)。

しかし、ゴジラがもし今の日本に現れたら?という問題設定から、執拗にリアルを追求し(作中で繰り広げられる会話がリアルかは微妙)、着実に話を積み上げて行く様は圧巻です。こうした計算高い展開の作品は、段取りチックな話の展開になりがちですが、個性的な人物描写によって、これを巧妙に避けています。本当に練りに練られた脚本と感じました。

また何より、ゴジラとの戦闘描写がすごい。素直に興奮しました。各方面への地道な取材の賜物と感じますし、こうした部分の作り込みが、本作品を凡百の作品とは異なる素晴らしいものにしていると感じました。

以上からすると、この作品は、オタクのおっさんが、作中の若い優秀なキャラクターを借りて政治や国の将来を語るという説教臭さに難があるものの、それが好き、若しくはそれを置くならば一級のエンターテイメント作品であると思います。
ジョン

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