MasaichiYaguchi

杉原千畝のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

杉原千畝(2015年製作の映画)
3.7
戦後70年の今年を締め括るように、第二次世界大戦下のリトアニアで、6000人ものユダヤ人の命を救った日本人外交官・杉原千畝の半生を描く作品が公開される。
「命のビザ」を発給した人物として過去に演劇やテレビドラマで描かれたことはあるが、諜報外交官としての側面、リトアニアのカウナスを去った後の日々も描かれ、知っているようで知らなかった千畝の人となりが伝わってくる。
その人となりは、彼が卒業したハルビン学院のモットー「自治三決」の「人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして、報いを求めぬよう」が代弁しているように思う。
そして、ナチスが台頭してヨーロッパへの侵攻が始まり、ユダヤ人への迫害が本格化する中で、リトアニアへ逃れてきた彼らが最後の望みを託して千畝のいる日本領事館へ押し寄せた背景も描かれる。
更に当時の外務省の訓令を無視して、2900通以上のビザを発給した千畝の心情も理解出来る。
何カ国語も自在に操り、外交官としてでなく、当時のソ連が恐れる程優秀な諜報員でもあった千畝は、終始一貫して人道主義のコスモポリタンであったと思う。
彼の諜報活動も、日本が有利に戦局を進める為というよりも、ソ連とドイツを中心とした国際情勢を冷静に見極め、その世界の動きの中で日本が如何にあるべきかを提言する為のものだ。
映画の中で何度も彼の言葉として「世界を変えたい」というのが出てくるが、それは彼が希求して止まなかった平和な世の中にしたいということだと思う。
この映画は今から70年前の出来事を中心に描いているが、大量の難民が発生し、ヨーロッパ各国を中心に流入しているのが問題になっている今の世界状況を考えると、この映画で描かれたことは決して古びていない。
妻や子を愛し、人種や身分を越えて人と交わり、その強い信念と行動で周りの人々を連鎖するように変えていく杉原千畝という人物に改めて魅了された。