えむえすぷらす

杉原千畝のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

杉原千畝(2015年製作の映画)
4.0
史実翻案ものは好み。本作は映画としては弱いところがありますが邦画では頑張った方かなと。

お二人ほど演技が怪しい方がいて作品世界に溶け込んだ演技されてませんでした。冒頭の謀略は陸軍を辛く描いていてその点は良いのですが(杉原千畝氏が陸軍を嫌っていた話自体はあるので)、作中の謀略は史実にはないフィクション過ぎてつらかった。

日本に戻ってから大演説があって萎えたのですが、その後のフックにはなっていて無駄にやったのではなかった。また二人目の奥さんとの出会いから結婚まで同じ場所の4カット程度を説明セリフなしでつないで、なるほどと思わせる大胆な時間短縮をやっていて良かった。

「ホロコーストと外交官」という本ではリトアニアでの杉原千畝氏のビザ発行についての章が設けられています。他の国の外交官たちもそれぞれが国の命令を無視したりしながらユダヤ人をはじめとした国外への脱出を望む人々を手助けしている事はこの本で一人一章構成で詳しく書かれているところですがこの事も合わせて知っておきたいところ。そのような言及がないのはこの映画の弱点の一つに思える。
またソ連情報収集の最前線にいた杉原千畝氏については最近邦訳が出た「ブラッドランド」という独ソ間の領域で1933〜45年の間に起きた政府による意図的な餓死や殺害(ホロコーストを含む)について描いた本の中で取り上げられていますが、独ソ開戦については彼以外の欧州駐在情報担当者たちも警告を発しており彼一人の認識だったわけではないと辛口の記述がされています。

ベルリンの日本大使がいつも大島中将だったりするところはちょっと?(一度交代させられていてその時は来栖大使だった)でしたし、セリフ関係もわかりにくい時もありましたが、史実を全く無視している訳ではなく脚色が強いかな?という程度でまとめられているので、本作の参考図書にも挙げられている「諜報の天才 杉原千畝」を読んでおいた方が面白く見られる。

アメリカの史実に基づく脚色作品は小説原作作品が減ってこちらに流れ込んでいるためか面白い作品が多いのですが、本作は映像面の雰囲気作りは成功しているので、あとは脚本、脚色、キャスティングの穴を埋めていけばもっと良くなったと思うので応援したい。