ちろる

杉原千畝のちろるのレビュー・感想・評価

杉原千畝(2015年製作の映画)
4.0
昔、学校の授業で杉原千畝の事を知り、日本にこんな人がいた事を素直に感動したし、2.3年前に吉川晃司さんのミュージカル「SEMPO」も観に言った。
日本のシンドラーと呼ばれた彼のことを私は同世代の友達よりも知っているつもりだった。
でも、1外務省職員である杉原千畝が、ちゃんと血の通った人間だっただけでなく、本当はその優れた先読力でもっとトップに立って外交を行うべき人間だったということをこの作品で初めて知った。
この作品は、私が知っているような気になっていた千畝が多くのユダヤ人を救ったその後も彼が日本や世界を救おうと、外交官の役職を超えてまで戦った姿も描いている。

「ドイツと組めば、いずれ日本はアメリカと戦うことになって日本は負け、とんでもない事になる。」
彼はナチスに心酔するドイツ駐在の陸軍中将、大島浩にも何度も叫んだ。

いつもナチスドイツを描いた作品を観るとき、どうしても遠い時代の遠い場所で起こった遠い出来事の様にしてただ顔を顰めている私がいるけれど、そんなドイツと日本が同盟を結んでいた事を思い出すとぞっとする。

傍若無人に振る舞い帰る国の無いユダヤ人達をまるでゴミのように切り捨てる、まるでジャイアンのようなナチスドイツをみ 見て見ぬふりをするスネ夫みたいに付く日本がいた事。
知っていたけど、見て見ぬふりをしていた日本にとって、あのナチスのユダヤ人大虐殺は絶対に他人事なんかではなかったはずだ。

この時のように今もまた、日本は絶対に読み間違えてはいけないんだと思う。
今は世界がこの頃にとても似ているからとても心配だ。

杉原千畝は沢山のユダヤ人を救ったけど、
戦争が終わった後も彼の顔には後悔や悲しみの念が残っていた。
その表情は本当にシンドラーが、もう少しリストにユダヤ人の名前を加えられたらその分命が助かったのに!と泣いていたあのシーンと重なってしまった。
1人の人間では限界が生じてしまうジレンマに彼等が苦しむ間にも平然と知らんぷりしていた人間がいたことはぞっとするけど、今の時代にあてはめれば私もその知らんぷりしている側の人間なんだと知る。

ユダヤ人を救って命を助けた英雄として、美談だけでは終わらせず、立場を犠牲にして、同然で領事判を押したことや、それらが周りの人々のサポートのもとに成り立っていた事。
多少映画的に感動的にまとめた部分もあると思うけれど、決してキレイな部分だけでなく、リトアニアに来る前の失態や、危険なスパイ行為など、杉原千畝の魂をかけた人生をしっかりと見つめて描いた秀作だと思う。
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