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懲罰大陸★USAのryosukeのレビュー・感想・評価

懲罰大陸★USA(1971年製作の映画)
3.7
ニクソン政権の時代、ベトナム反戦運動が盛んだった世相を背景に作られたフェイクドキュメンタリー。実際に存在したマッカラン国内治安維持法にも予防拘禁の規定があった(英語版ウィキペディアによれば公開年に予防拘禁に関する規定は廃止されたらしい)ようだが、それが濫用されるとどうなるかという試みは中々面白い。しかし、当時は過激過ぎるとして受け入れられなかったようだ。まあ今より数段センシティブなものだったのだろう。
フェイクドキュメンタリーとしてはかなりリアルに仕上げられているな。被告人たちの姿には本物の怒りが宿っている。しかし、彼らの言葉はまるで暖簾に腕押しで、国側の人間は困惑と軽蔑の表情を浮かべるだけであった。
そんな中で、18歳の州兵の青年がターゲットを撃ち殺した後に、テレビ局員の詰問に対して泣きそうな顔をしながら「事故だった」と弁明する姿にとりわけ真実味とインパクトがあるのだが、彼もこのシステムの中で次第に鍛えられ、鈍化し、単なる職業人としての法執行者になっていくのだろう。
インタビューと裁判の様子が、「懲罰公園」での逃走劇とひたすらクロスカッティングされていくという作りなのだが、基本このシステムはずっと変わらず繰り返されるので若干の単調さはあるかな。ただ、やはり被告人たちが反骨精神を示すインタビューと彼らが死体になる瞬間のモンタージュは、多少これ見よがしでもインパクトがある。
合衆国に反旗を翻した被告人たちが、星条旗を目指して走らなければならないというゲームの設定の皮肉さ。
暴力を扇動したとして訴追された黒人青年は、独立革命によって成立したアメリカは、その後のインディアンからの土地の収奪や奴隷制も含めて、暴力そのものを基礎としているという旨の論陣を張る。何より、懲罰公園の風景を見ていれば、国側が非難する「暴力」とやらと権力の区別は、その内容の違いではなく脆い正統性に支えられており、場合によってはその正邪が逆転することもあり得るということが明白になっている。
シンガーソングライターの女性とPTAレベル100みたいなおばさんの言い争いも印象に残る。懲罰を家庭内でのしつけとのアナロジーで語る男も出てくるが、国家のパターナリスティックな支配が描かれる本作で、主婦なんとか連合のPTAおばさんが出てくるのは必然だろうか。インチキ精神医学を駆使する似非社会学者も出てくるが、これまたパターナリスティックな側面を持つ精神分析が、正常と異常を区別し、逸脱を判定する本作の裁判の場に持ち込まれるのもよく分かる。
憲法学者の弁護人が最終陳述で「これは大統領の言葉ではありません...」と語り始めた瞬間にヒトラーがくるぞと思ったがやっぱりヒトラー。そうだよね。
本作の中で、狭量な愛国心、ショービニズムと弱者を抑圧する体勢を非難されてきた合衆国側だが、ラストシーン、ちっぽけな星条旗を守るためにずらっと兵隊が並び、丸腰の被告人たちを踏みつけている姿において、被告人たちの非難してきたものを見事に体現してしまったのであった。
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