GreenT

The Cutting Edge: The Magic of Movie Editing(原題)のGreenTのレビュー・感想・評価

3.0
映画を観ていると、最初に目に付くのは役者さんですが、色んな映画で同じ役者さんの印象がまるで違うと、他の要素にも興味を持ち始めます。

「なんでこのシーンこんな刺さるんだ?!」って考えたときに「編集なのかなあ」と思うことも多かったので、このEditor(編集者)にスポットライトを当てる映画を観てみました。

映画編集の歴史のところが結構笑いました。最初「動く絵」という媒体が出てきた時、人々は「ただぼーっと映像を飽きるまで撮影していた」そうで、「なんで実生活で体験できることをわざわざ映像にして見せる必要があるのだ」と、最新鋭のテクノロジーながら全く将来が見えなかったらしい。

ところが、編集という技術で無関係なシーンを繋げていくと、「ストーリーを語れる」ということに気が付き、それからは「動く絵」を「映画」に昇華することが出来たと。

ジャクスタポジション(juxtaposition)って言葉がやたら出てくるので「なんだ?」と思って調べてみたら「並列に並べる」って意味らしく、要するに「火事の家で大騒ぎになってる家族」と「出動する消防車」という無関係なシーンを編集で「並べる」と、「物語」になるという意味。なるほど〜。

編集者には女性が多く、その理由も面白くて、むかーしはフィルムを切り貼りするって作業が「裁縫のよう」だったから女性の仕事とみなされ、音響を入れる仕事は「テクノロジーを使うから」男性の仕事とみなされていたんだそうで。

タランティーノの『レザボア・ドッグス』から『イングロリアス・バスターズ』まで?ずーっと編集者をやってたサリー・メンケって人も女性なんだけど、タランティーノが出てきて言ってた:

「編集者は女性が良かった。男だと張り合ってくるけど、女性は協力的だから」って。

“nurturing” って言葉を使っていて、「育成する」って訳されるけど、このコンテクストでは「協力的」ってことだなと思った。つまり「関係を育成する」「映画を育成する」ために歩み寄る、って感じ?男同士だとどちらがすごいか、どちらが正しいかを証明するエゴのぶつかり合いになるってことらしい。

分かる!!

他にも「アクション・シーンの編集」では、「最初と最後が見えなくてもいいから、同じ場面の別角度のショットを続けて流す方が臨場感がある」とか、なるほどね〜と思った。

「セックス・シーンの編集」では、編集の仕方次第で、エロチックな刺激的な映画になるのか、ただのポルノになるのかが決まる、ってのもなるほど〜って思った。

あと、役者さんの表情が全く同じなのに、その映像と並列に並べる映像が「美しい女性」「お葬式」とかって変わると、表情が「欲情」に見えたり「悲しみ」に見えたりする!つまり人の感情も、編集で作り出すことができる!

だから上手くない役者でも、編集や音響などの裏方さんが上手かったら良く見えるんだよ。

こういう話を聞いて「なるほど〜」とは思うんだけど、それでも人間業とはとても思えない。一個一個のフレームを見比べて、細かいとこまで見て最適なところで切り貼りするなんて。

タランティーノはやっぱり上手いこと言うな、って思ったんだけど、「映画の一コマ一コマは、音楽の一音一音みたいなもの」って言ってた。だから「ここはこの音じゃなくてこっちだろ」みたいなことができるんだなあと納得。ただ曲は3分とか5分だけど、映画って編集する前は2時間なんてもんじゃないでしょ?それを全部やるとは、やっぱり想像がつかない。

『パルプ・フィクション』では、タランティーノとサリー・メンケは「ウマ・サーマンとジョン・トラボルタのデート・シーン」で8ヶ月、「旦那といるよりタランティーノといる時間の方が長かった」くらい議論し合ったらしい。

他の有名監督や編集者もたくさん出てたけど、みんな面白いね〜。コメディ観るより笑ってたかも。

そん中で誰だったかな?が言ってたけど、編集に入るとやっと「映画作りが始まった!」って思う、つまりその前までは準備期間だ、って言ってた人がいたけど、この気持ちは分かる。

私は裁縫をするので、まず「なにを作る」そして生地は何にする、デザインは?どうやって縫うか、ってのにものすごい時間かかって、切って縫う段階になるまでに膨大な時間がかかるのを知っているので、この気持ちは理解出来た。

しかも「編集段階で脚本が変わることもしばしば」ってのも。裁縫も縫い始めてから「こんなハズじゃなかった!」とか「あ!こうした方がいいな」なんて思ってまた違うパーツを切ったりしなくちゃいけないこともあるから「撮り直し」って気持ちも分かる。

最後に、編集者って元々は単発で雇われる「技術者」だったのが、のちのち映画制作の重要な位置づけになり、アカデミー賞でも「編集賞」ってのが出来たんだよ〜って話になり、最後「編集賞は・・・・」ってオスカーで発表されるシーンで終わるんだけど、「2022年オスカーの時の人」ウィル・スミスが過去にプレゼンターをやってたシーンで「おお〜!!」って声に出た(笑)。
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