MasaichiYaguchi

母と暮せばのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

母と暮せば(2015年製作の映画)
3.5
井上ひさしさんが広島を舞台にした戯曲「父と暮らせば」の対となる作品を実現しようとして果たせなかったのを、山田洋次監督がその遺志を継ぐように映画で結実した本作は、母・福原伸子役の吉永小百合さんと、その息子・福原浩二役の二宮和也さんの二人が紡ぐ感動的な母子の物語。
戦後70年の節目の今年、様々な題材で先の大戦を振り返った数々の映画が公開された。
本作は、1945年8月9日に長崎に原爆が投下されたことによって人生を狂わされた母と子の姿をファンタジーの中で描くことによって、よりその悲劇性、原爆の持つ非人道性、戦争の残酷さが浮き彫りにされていく。
そういった打ちひしがれる内容ながら、母・伸子と息子・浩二の掛け合いが微笑ましく、温もりがあって我々の心を和ませる。
そして“山田組”の看板女優になった感のある黒木華さんが、亡き浩二の恋人・佐多町子の楚々としながらも芯の強い昭和の女性を演じていて、この母子の物語の“キー・ウーマン”としての役割を果たしている。
そして上海のおじさん役の加藤健一さんが、物語に可笑しみを与える“道化役”で良い味を出している。
終戦から3年という未だ混乱が残っている時代ながら、本作品には悪人は登場しない。
長崎の上空に雲がかかっていたら、その時爆心地の近くにいなければ、様々な仮定から逃れられず被爆して亡くなった人々、掛け替えの無い人を失った人々。
この母子はそういった戦争被害者でありながら互いを思いやり、残された浩二の恋人の幸せを願う。
本作は人を思いやる尊さ、美しさを描きながら、長崎の原爆で亡くなった多くの無辜の人々、更にはその人々を含めた先の大戦で亡くなった人々へのレクイエムを奏でている。