ナガ

母と暮せばのナガのネタバレレビュー・内容・結末

母と暮せば(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【静と動、陰と陽、過去と未来、生と死、さまざまな対比がおりなす珠玉のドラマ】

この作品において一番重要だったのは「対比」であったと私は考える。一番わかりやすい対比は既にこの世の人ではない浩二と母伸子や恋人だった町子の対比であろう。正反対の存在が絡み合うところには必ずドラマがある。この作品もそんなドラマであったと私は感じた。

まず、静と動の対比。これは吉永小百合演じる母伸子の演技から感じる対比であった。母伸子はどんな時にも穏やかで冷静、つまり静の演技なのである。しかし、重要な場面では力のこもった激しい感情を伺わせる、つまり動の演技を見せるのである。だからこそ時おり見せるこの動の演技が私の心を震わせてくれたと思う。吉永小百合の演技は本当に素晴らしかった。洋画を見ていてもこんな演技を見せてくれる俳優を見ることはない。

次に、陰と陽の対比である。この作品の中心は、母伸子の住む家であり、そこで現在と過去が錯綜しながら物語が進行する。ではこの1つの舞台装置でどう物語を見せるのか?その役割を効果的に果たしたのが、陰と陽の対比であると考える。一番わかりやすいところから言うと過去の回想、つまり浩二がまだ生きていたころのシーンは部屋に光が溢れていたが、現在のシーンでは部屋が小さな電球やロウソクに照らされた暗いシーンが多かった。この陰陽にはやはり浩二の死が母伸子の心に与えた影響が現れていると思った。陰陽に関して一番印象に残ったのは町子が婚約したことを伸子に告げにくるシーンであった。このシーンは死んだ浩二や母伸子が生きている町子はこれから幸せに生きて欲しいという願いが叶った場面ということで明るいシーンととれる。だが、このシーンでは部屋はかなり暗いのだ。なぜか?私はこのシーンにはやはり伸子と浩二の町子はいつか自分たちのことを忘れて生きていくのではないか?という幸せを願う一方で抱える捨てきれない思いが関係しているのだと思う。だからあのシーンで2人はまだ心から町子の婚約を喜ぶことはできなかったのだと感じた。しかし素晴らしかったのは町子が黒田さんと一緒に戸を開けて家の外へ出るシーン。ここで外から光がパーッと入ってくる。ここが印象的だった。私はこの光が町子のこれからの幸せを暗示するとともに母伸子自身が浩二のこと、町子のことに心の折り合いがついたことを暗示したのではないかと感じた。

最後に、過去と未来、生と死の対比について述べたい。この作品には著者、監督の命ある限り前を向けというメッセージがこめられているのではないかと感じた。だから前半部分では母伸子、浩二、町子3人とも過去にはついてしか語らない。だが、後半になるにつれ3人は過去のしがらみから解かれ共に未来を見つめるようになる。この対比が絶妙であった。

過去のしがらみから解かれ未来への憂いも無くなった、母が静かに息子に連れられ死後の世界へと連れられる。この作品では不思議と死後の世界が明るく描かれる。それは現世ですべきことを終え、あらゆる悲しみと憂いから解き放たれたからこそ母伸子が見れた光景だったのだろう。

みなさんもこういった対比に着眼してこの作品を見てみてはいかがでしょうか?