江戸川乱歩の名作推理小説を、新たに映画化した官能サスペンス。蕎麦屋の店主がD坂で謎の死を遂げる。名探偵 明智小五郎は殺人事件とみて、妻と捜査を始める。蕎麦屋がよく通っていた古本屋の夫婦とめぐる淫らな情欲が明らかになっていく。
色使いが特徴的で、終始昭和初期ならではの色を最小限に抑えられた薄暗い照明に、陰湿感のある空気感が流れる。特に古本屋の店内はほぼ真っ暗であり、そこに扉が開き外の光や、また太陽の光の使い方が絶妙である。古本屋の奥さんの顔にだけ光が当たり、ツヤっぽさを演出したり、光と影が模様を浮き彫りにし、現実の描写と比例していく。女性だけに光を当て、男は暗いままの絶妙な光と影の演出が、表と裏をあぶりだすように対照的な映像と交差していくのだ。
女をめぐる二人の間で繰り広げられる心理戦が、SM描写の中に落とし込まれて、その世界観の妖艶さに溶け込む。じっとりと汗が滴るような空気感の中で、か細い喘ぎ声が重なり、痛みと快感の狭間のわずかな隙間に死へのつながりが見える。複雑な心理戦が引き起こす結末とだましあいの末の真実の愛の形が、また次につながる予感を残しつつのラストの余韻もいい。