深獣九

無垢の祈りの深獣九のネタバレレビュー・内容・結末

無垢の祈り(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

平山夢明原作、亀井亨監督「無垢の祈り」
ついに、観ることができました。
期待通りの傑作。期待以上の快作いやさ懐作。
自分の心はバラバラにされました。

とにかく自分は平山先生の作品が大好きで、もうずいぶん前から映像化して欲しいと願っておりました。この話はこんな風になるのかな?あの話はこうなったらいいな。
平山先生の作品を読むときは「原作平山、監督自分」で映画化してます。
そして今夜、亀井監督の「無垢の祈り」に完敗しました。いや、元から勝てるとは思ってなかったですが。もちろん。

亀井監督の評判は聞いていましたが、実際に作品を観たのは「闇刻の宴」。ホラーのオムニバスの1話を担当されてました。
作品名は「幽閉confinement」。やはり異様で、他の作品とは一線を画していました。
ネタバレになるので言うことはできませんが、本作の仕掛け(主演?)が「無垢の祈り」にも使われており、ホラーとしての質がぐんと上がってます。まだご覧になってない方は、楽しみにしててください。

さて「無垢の祈り the movie」ですが、特に印象深かったことを以下に記します。

◯カットとカットの間に何があったか、観客に判断を委ねる形式。だから最悪のことを考えちゃう。いや、そこまではないよなって自分を安心させる。思いが揺れ動くから不安でいっぱいになる。

◯原作の再現性。自分、けっこう評価します。原作大好き派なんで、再現性を求めます。
本作は、原作者が「120%の満足度」との評価。なるほど、頷けますね。細かなところは、監督の解釈でじゃっかん調整されてるようですが、「原作者の魂の叫び」という観点では、自分、500%くらい評価してもよいと思います。
とくに表現。義父の偽善(平山先生の言葉!)、殺人者の描写、母親の狂気など原作を超えてます。原作では平山先生の思いが強すぎて、これらを小さな殻にぎゅうっと閉じ込め、まるでブラックホールのような重力で読者を吸い込んでいたかと思います。
でも、この作品では亀井監督がそれを一気に解き放ち、ビッグバンとなって自分らを吹き飛ばした。こんな風に感じました。
再現という言葉を越えた再現。それをすべて受け止める原作者。
アツいです。

◯本作品は、そもそもホラーじゃないですよね。殺人者や殺人描写などホラー要素はあるけれど、平山先生が描きたかったのは児童虐待という社会問題。それを虐待される側の視点・思いから描いたのが本作。
だけど、亀井監督は義父をおもいっきりネジの壊れた人間に仕立て上げた。平山作品という最高の素材を、その三ツ星シェフの腕でもって極上のエンターテインメントに料理した。

◯ホラー要素についてもうひとつ。前作に続き、人形・舞師綾乃テンさんを起用するなんてずるい!物語の世界観があらゆる意味で壊れましたよ!(やっぱいい意味でw)。自分らが想像でしか補えなかった、でもその想像を信じる勇気を持てなかった、原作では描かれなかったシーン。見事です。
小さい女優さんを守るという理由もあるのでしょう。フミが自分を客観視してるあのシーン。おそらく別撮合成でしょう。主演の福田美姫さんを守るために、現場ではその名のとおりの「お姫様扱い」したと聞いております。脚本は暗号化の意味、作品を観て理解しました。実際の台詞とアフレコが異なるシーンもあると思います。亀井監督の気遣い気苦労が偲ばれます。
ただ、これがこの作品の質をぐっと押し上げたこと、異論を差し挟む余地はありません。亀井+綾乃。このコラボ、ますます目が離せません。

◯ただ、そこまでやるんだったら義父の最後は原作通りにしてほしかったなー。

◯ラストシーン。フミの、殺人者への叫びは凄まじかった。原作では描かれなかったシーンだけど、平山先生の魂の叫びだなこれは。汲み取って描ききった亀井監督もまた天才。

◯眼帯の隣人が、窓から覗いたフミに手をふりきびすを返すシーン。女の向こうには輪に結われた縄。それだけのシーンなんだけど…心臓が抉られる。

◯ロケ地のひとつが川崎!地元民としては、この上なく嬉しいです。自分が行ったことのある場所がちょっと映ってたのが嬉しい。
平山先生のご出身も川崎ですよね。また一歩、先生に近づきました(≧▽≦)

◯平山刑事の台詞。あれはリアルを追求したの?原作はもっとオブラートに包んでたぞ。キ○ガイってもろ言ってたしwww


などなど。徒然に記しましたが、とにかく緊張感溢れる傑作でしたね。時間があれば、もう一度観たい。DVDが欲しい。難しいみたいだけど。キチ○イだし(-∀-`; )
深獣九

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