Smoky

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇のSmokyのレビュー・感想・評価

3.9
世界最大の麻薬消費国である米国を隣国に持つメキシコの麻薬は、同国の石油やアボカドと並んで外貨をもたらす輸出品。もちろんオフィシャルな産業ではないから税金も払っておらず関係者は丸儲け。同国カルテルのボスの一人は、フォーブスの世界富豪ランキングにランクイン。たくさんの資金洗浄会社と私設軍隊を持ち、議員や警察への給与(賄賂)提供以外にも、貧困層の雇用創出や、災害時の支援活動などを行い(政府より早いらしい)、もはや国の中にもう一つのエコシステムがある状態。
 
米国(壁の向こう側の国)では、そんなカルテルのギャングたちを英雄視し、賛美する歌(コリード)や、ドラマ制作などのエンタメ市場が急成長。安全な環境で、麻薬だけでなくその周辺すらも商品化し消費することで隣国の搾取と破壊と犠牲に加担している。この状況に憤りを感じるレビューを見かけるんだけど、今やメインストリームの音楽となったヒップホップだって同じようなもんだからなぁ…。
 
一方、メキシコ(壁のこちら側の国)にある町、フアレスの警察は、圧力(報復)と汚職と殺人事件の多さによって捜査機能が麻痺し、実質は死体回収業者と化している。主人公の一人である警察官は、危険で過酷な仕事を続けてる拠り所を「地元愛」と語るが、上述のように国の経済が正常に回ってないわけだから他に働き口も無く辞めたところで暮らせない…という事情も透けて見えるのが切ない。明らかに焼け石に水(無駄)と分かっていて、しかも間接的に愛する地元の破壊に加担している役人仕事…。自分なら間違いなく病んでしまう。
 
こうした現実の前にして人間は、途方に暮れ、成す術もなく、無力だ。だからと言って、スルーするのではなく、頭の片隅に入れておくこと、その時が来たら意識して出来る範囲で行動すること。それを知れるだけでも良い映画だと思う。
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