カテリーナ

恋人たちのカテリーナのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.8
飲み込めない思いを
飲みこみながら生きている人が
今の日本にどれだけいるんだろ
今の日本が抱えていること
そして人間の感情をちゃんと描きたい

橋口亮輔監督はこんな思いを込めてこの作品を作った

無名の俳優を起用した理由は感情が主人公だから
徹底したリアリティを貫き
淡々と日常を描くためドキュメンタリーのようなつくりになっている
特にドラマティックな展開はない

妻を通り魔に殺された男
家族に見離された主婦
ゲイの弁護士

この三人の人生が交錯する
男が頼む弁護士はゲイ
男が食べる弁当は主婦のパート先の仕出し弁当

三人の日常の中で一瞬だけ
相手の生活の一部に触れる

妻が突然自分の世界から消えてから
隣の部屋は入る事さえ躊躇われ
窓が閉められ灰色に沈んでいる
その部屋に弁当を持ってやってくる
男の勤め先の同僚が唯一優しさと思いやりで
包む 役場でも病院でも弁護士さえ
手を差し伸べるものはいなかった
男は
初めてその同僚に自分の飲み込めないことを吐露する
その心の叫びは
魂を揺さぶる

これこそが橋口監督の描きたかった事ではないか?
個人的にこの場面では涙が止まらなかった


男が死ぬ事も裁判をする事もできず
それでも生きて行く兆しを見せる
ラストシーンは静かに青い空を見上げる

そこにはきっと笑顔で男を
見守っている

風が揺らすカーテン
明るいその部屋には
亡くなった妻の好きだった
チューリップがテーブルを飾っていた

人間の感情をきちんと映像にして
見せてくれた橋口監督に
感謝しながら、
日本にこのような素晴らしい映画が誕生したことに喜びを噛み締めながら

映画は淡々と粛々と幕を閉じる
カテリーナ

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