コーヒーマメ

恋人たちのコーヒーマメのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.4
今月上映作のなかで一番期待していた本作。
雨降る午後に観て来ました。

「誰かの絶望が回り回って、名も知らない誰かを苦しませ、誰かの希望が回り回って、名も知らない誰かを救う」
観終わってすぐ、感じたことです。
世間の理不尽に耐えることや、退屈な日常をやり過ごすことは、とても難しい。
それでも生きていくためには、“クソみたいな”世の中でほんの些細な希望を拾っていくしかないのだ。
目を逸らしたくなるほど「人間」を真っ向から描き、主人公たちのリアルな言葉はずっしりと重いのに、最後には今を愛そうと思えた。

通り魔殺人によって妻を失い、貧乏暮らしを余儀無くされた男と、平凡な夫婦生活に嫌気が差している女、彼氏にフられ、親友からも冷たくされるエリートのゲイ弁護士。
不条理がまかり通り、明日さえ見えない“今”に病み、もがき、苦しむ人たちの人生がかすかに交錯していく。

痛みは当事者だけのものであり、決して他人には伝えられないし、他人がどれほど痛いのかも真にわかることはできない。
そして何より、その痛みはどうやっても減ることはない。
「行き場のない怒り」をそれぞれ表現する三人の姿に、心が揺れ動かされた。
彼らがほぼ無名の新人俳優とは、とてもじゃないけど思えず、劇中でもがき苦しむ主人公と同様、大役に抜擢された三人の苦悩がリアルに反映されていたのかもしれない。

本作の特徴の一つとして、「セリフが極端に少ない」ことが挙げられる。
しかし、そのぶん一つ一つの“密度”はとてつもないものがあり、観る者に登場人物の感情をダイレクトに伝えてくる。
「世の中には、いい馬鹿と、悪い馬鹿と、たちの悪い馬鹿がいる」
「東京オリンピックなんてどうでもいいんすよ。“人を殺してもいい”って法律はできないんですか?」
役者の全身全霊を込めたセリフにはとても感情が宿っていて、観る人の心を動かすパワーを感じた。

この物語は、主人公たちにとって、「物語の始まり」で終わる。
『ぐるりのこと。』を撮ってからこれまで壮絶な七年間を送った橋口監督だからこそ描ける、人生を謙虚に肯定するラストシーンは絶対に忘れられない。
シリアスでヘヴィなストーリーだけれど、クスッと笑えるユーモアもちゃっかり散りばめてある。
テレビでは毎日のように殺人事件が流れ、世界中で同時多発テロが報道されるめちゃくちゃな世の中で、自分たちはなぜ生きていけるのか。
その答えが、わかったような気がした。