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恋人たちのTOTのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
3.9
小説家でも画家でも漫画家でも個人的に特別な、ちょっとしたヒーローみたいな存在がいて、映画監督では橋口亮輔さんが私にとってのそれにあたる。
ドラマティックでない市井の人の生だの死だの性愛だのを、かっこつけず、編集でカットしそうなシーンも丸っとおさめて、喜びも痛みも笑いも織り込んだ本当のようなフィクションを作り出してしまう。
故・淀川長治さんが言ったように、橋口監督は「人間のハラワタを掴んで描く」人だ。

今回の主要人物三人(アツシ、瞳子、四ノ宮)は自分の痛みに夢中で或いは痛みに気づかず、或いは痛みを見ないふりをしている。
監督は、貧しく、愚鈍で、傲慢な、三人三様の彼らだけのものである痛み方、夢を見ることすらできない絶望を類型に流されず誠実に描こうとする。
前作まで以上に、今作の主役たちは他者の中にあっても徹底して孤独だ。
彼らが他者を拒絶し、社会を拒絶し、或いは彼らが他者から拒絶されたように感じて生きているからだ。

でも彼らは、他者、同僚やめんどくさいと思っていた人間との会話や交流で、徐々に変化していく。
その過程を写し撮る視線の優しさ。
監督の作品には、人生への肯定があり、どんなに絶望しても生きようとしてしまう、この世には希望があるって描こうとする。
現実は苦しい、望みは叶わない、だけど積極的でなくても生きていかないといけない。前作までの主役は一人だったが、今作は三人と多い、三人の痛みに軽い重いは無く、解決もしない。

希望の提示は少し唐突。
でも、画面に映る首都高速と河川の交わりのように、三人の話が、痛みが平行し時に交わる。どんな川もいつか海に流れつく、道は続いている、そこに希望がある、それが当たり前であってほしい。
監督はそう言わんとしてるように私は感じた。

役者歴の長い役者さん短い役者さんのケミストリー感も良い。
光石さん木野さん安藤さん黒田さんは言わずもがなだけど(あと内田さんめっちゃノリノリで面白い)ワークショップから参加された役者さんたちが皆さん一人一人、あっ!と目を見張るシーンがあって心を動かされた。
株式会社太陽の事務員の子のアメちゃんとか、四ノ宮の彼氏がムリって言うシーンとか、瞳子の茫洋とした表情や、アツシの死んだ目、四ノ宮が友人に語りかける口調と最後の独白。
特に瞳子を演じる成嶋さんと四ノ宮演じる池田さんの表情と台詞回しはドキッとするほど怖かったり生々しく。池田さんどエロいです、素晴らしい。他の作品も見たい。

私はこの作品を好きではないし、何回も見直せない。
あまり宜しくない演出、物足りなさもある。
けれど、思春期に衝撃を受けた私のヒーローが、彼の髪が白く、肌にはシミが目立つようになった今も、変わらず真摯に映画を撮り続けている。
それがとても嬉しいし、見させてくれてありがとうって言いたい。
これからも見続けることができたら、さらにアップデートされたものであったら、なお嬉しい。
まずはおかえりなさい、橋口監督。