おやすみ

恋人たちのおやすみのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.5
ぐるりのこと。でどっぷり好きになった橋口監督の最新作という事で新宿テアトルまで足を運んだ。文の始まりから絶賛させていただきたい。最近、洋画にばかり魅了されていたがこの作品を見てやっぱり邦画でしか味わえない空気と言い表し難い表現の見せ方に思わず恍惚とした。似たような構成で例えれば、ふがいない僕は空をみた、を鑑賞した以来の感動である。

まず今回注目したいのが、メインの出演者達がほぼ素人に近いとのこと。これが本当に何億といる人間の日々をごく自然に切り取って見せられているようで、生々しいリアルが辛かった。とても良い。一人一人の生活が息衝いていて、共感、とかではなくこうして狭い世界で生きている人間たちが色々なモノを抱え呼吸をし拙い毎日を繰り返すのが私たちなのだと示されているようにも思えた。

奥さんを通り魔に殺害され犯人への殺意に生かされているアツシはどの場面でも惨い気持ちにしかなれない。仏壇の前で泣きじゃくりながらもう無理かもしれん、と嘆く姿に私は咽び泣く事しか出来なかった。アツシは度々じゃあ俺になってみろよ、と感情を爆発させていたが決して共感の涙は流せないのだ。悲惨な経験をし、世の中には運が悪かったと言われ、胡散臭い先輩には(リリーフランキー最高)人生計画が大事だから外国へ移住しよう?これこそ本当にやってらんねえよって話です。私だったら可能不可能は置いといて、犯人殺して自分も死にます。他人の絶望で泣くんです人は。私もわんわん泣いてました。共感出来ないからこそ、泣くしかなかった。

同性愛者の弁護士は一見人生を計画通りに歩んでいるように見えますが仲の良かった親友は所帯を持ち自分の事を煙たがり、骨折しても側に居てくれる存在は居ない。結構散々です自分の知らない人、が大半で構成されている世の中を主張するのに効果的な人物でした。でもやっぱり最後まであんまり好きになれなかったなあ…笑

姑や夫とただ時間だけが過ぎていくように過ごしてきた弁当屋で働くおばさんは私にとって恐怖でしかなかった。私も歳を追うごとに腹はでて肌は弛み夢も希望も愛も薄ら笑ってどっかに飛んでっちゃうようなおばさんになったら…怖い考えただけで怖いやめてくれ。自分の憧れるお姫様を自分と重ね合わせた小説を書き、それをヤク中のおっさんとキャピキャピやってんところが見るに絶えなかったっていうのは秘密。でも、自分が女だからこそこのおばさんの役は欠かせない人物として食い入るように見ることが出来た。何年も前のワンピースを着ておめかしをしてドキドキ。私これから新しい人生を送るの、それで胸がいっぱい。幾つにっても女は女。枯れる事なかれ乙女。きっとこのおばさん良い人なの。良い人だから空回りばっかで詐欺には簡単に騙されちゃうし仕事は出来ない。だから私は嫌いになれなかったな。

それでも人は生きる、本当にこの言葉通りの映画でした。この前ふと思った事があって、電車に乗っている時にやけに硬いリュックが私の左肩にごつんごつん当たっているのだけれど、その時の男子学生はこれに全く気付いていない。こうやって自分も自分の意識とは関係のないところで他人に何かしらの思いを抱かせているし、傷付けているかもしれない。それを思うとなんて狭き世界なんだろうって。でもそんな世界で生きているのが私たちだし、光だって闇だって見つけるのも探るのも今を生きている私たちだ。そして、痛みや傷だけじゃない。喜びと笑いだって、あるじゃないか。アツシの仕事先の先輩が行ったように、笑うご飯を食べるそれだけでも大事って。最後はそう思わされるラストだった。恋人たち、劇場で鑑賞する事が出来て本当に良かったです。

余談ですが、Akeboshiの音楽もはちゃめちゃに良かった。速攻で調べてサントラ買おうと思います。良き音楽と映画は私を救ってくださる有り難み。