グラッデン

恋人たちのグラッデンのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.2

作品に関する情報を取得する前は『恋人たち』というタイトルにナチュラルな苦手意識を感じていました。

ジャンルを問わず見に行く姿勢ではありながらも、男女の恋愛を描いた作品が好きかといえばそうではないからです。

予告編を見て、そうしたイメージが全くの見当違いであることを理解し、「早く本編見たい」という思いが強くなりました。

本作では、3人と【恋人】の「喪失」と「絶望」と「希望」を描いています。自分は、劇場で作品を見た後、そうしたものが人にもたらす影響というものを軽く見ていたことに気づかされました。

喪失とは、何かを失った瞬間よりも、失われたものが二度と戻ってこないことに気づかされます。失われた者の行き場のない怒りや不安が画面を通じて伝わってきます。

喪失がもたらす感情や状況は、次第に絶望に追い込んでいくことが作品が進むにつれて理解が深まります。息をしているし、体も動かせているが、生気がどんどん失われていくようにも感じました。

特に主演の一人である篠原篤さんの演技とは言い切れない心からの叫びに、胸が締め付けられる思いがありました。頭の中で素直に「苦しい」という言葉が思い浮かんでくるほどでした。

しかし、そうした状況を映したからこそ、小さな希望があることの重みも感じることができました。喪失や絶望に比べれば、希望を抱けるものは本当に小さなことかもしれしれないが、そうしたモノの積み重ねが日常には大切なのだと痛感しました。

そのうえで、本作を見終わった後にポスター等に書かれた「それでも人は生きていく」「それでも人生は続いていく」というフレーズを読むと強い説得力を覚えました。

本作は、人の営みにおける普遍的なテーマを取り扱うと同時に、現在(特に3・11以降)の日本を取り巻くムードを汲み取り、人々の日常の中に落とし込まれた作品でもあります。

だからこそ、今(2015年)見ておきたい作品であると同時に、これからも多くの人に見てほしい日本映画だと思いました。今年の映画締めに選んでよかったです。