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恋人たちのslowのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.6
不完全な恋人たち。
不条理な事件で愛しい人を失った橋梁点検士の男。表情には常に憤りが滲み、誰にともなく言葉を溢し続ける。無口な夫とその姑と暮らす女。奥底にあった身体中の毛穴が開く感覚と、不意に客観視してしまった現実の間で揺れ動くのは何心か。全てを掌握し、完璧な路を歩んで来たはずの弁護士の男。しかし、その足取りはいわれのない扱いに脆くふらついてしまう。

冴えない中年の男女がはしゃぐ姿なんて誰が見たいんだ。普通ならそう思ってしまいそうだけど、何故こんなにもキラキラと美しく面白いシーンとなってしまうのか。凄い。役者の好演、と言うか演技の違和感の無さは生々し過ぎる程。その中でも安藤玉恵は異質な個性を、黒田大輔は抜群の存在感を放っていた。2人のおかげで一方向に偏りそうな作品の比重はいい意味で分散されていたように思う。しっかりと脇役でありながら、しっかりと爪痕を残す。本当に素晴らしい。

生傷に何度も気を失い、傷跡を見る度に気が狂う。この苦しみは特別なものでも何でもないんだ。それぞれの現実にそれぞれの苦闘。過去と夢に逃避する者もいれば、受け入れられずに涙する者もいる。自分の存在すら見失い彷徨う魂に、そっと、思いがけず触れる他人の言葉。それは鬱屈した社会の中で、どれほどの意味を持つのだろうか。
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