ケンヤム

仁義なき戦いのケンヤムのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い(1973年製作の映画)
4.8


戦後日本の無秩序の中の混沌は、ヤクザという組織に戦後日本の縮図として顕在化した。


私には戦争という暴力が終わり、社会が新しい暴力を求めているように見えた。
新しい暴力は、社会から虐げられた人々が所属するヤクザという組織に集中した。
そして、ヤクザという組織の中でも若者が暴力の矢面に立たされた。


いつの時代も、金にがめつい卑怯なおじさんたちは若者を口八丁手八丁で使っていく。
この映画では、政治家が抗争の発端として描かれている。
政治家は政治のゴタゴタをヤクザに押し付けて、のうのうと票を確保する。
それが、戦後日本の正体だ。


現代に生きる私たちは、この映画を遠い昔のことだと侮ってはいけない。
北野武監督作品であるアウトレイジに描かれるように、今もヤクザは政治に深く関わっている。
この映画に描かれる、戦後日本のヤクザと政治家の関係は、暴対法の存在により表に出なくなっただけで、今も変わってはいないのだ。


血みどろの抗争の中で、むき出しになるそれぞれの人間性。
暴力の前で人は丸裸になる。
組長に媚びる者。
組長を殺そうとする者。
現状維持しようとする者。
そして、義理を通そうとする者。
そこには、人間の多様性が見られる。
多様な人間を暴力でまとめようとすることがいかに馬鹿げたことか、この映画を観るとよく分かる。



丸裸の人間を見たい時、私たちは暴力的な映画を欲するのだろう。
暴力がはびこる社会で、暴力を見て見ないふりするのは、とても不健全なことだ。
どんな時に、自分が暴力をふるう可能性があるのか。
また、ふるわれる可能性があるのか。
映画の中に自分を埋没させて、暴力を感じることが大切なのだと思う。


「仁義なき戦い」は、甘ったれた現代に現実を突きつける傑作だ。
ケンヤム

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