えいがドゥロヴァウ

独裁者と小さな孫のえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

独裁者と小さな孫(2014年製作の映画)
3.5
架空の国を舞台にしていて、冒頭の電飾を飾った通りのショットで映っている車から察するに時代設定は現代かなと思いましたが、時代も特定しないで観たほうが良い作品でした

失脚した独裁政権の大統領と共に逃亡する孫は世間知らずの坊ちゃんぶりを発揮
ウンチをしたあとも自分でお尻を拭けない
拭いてくれと頼まれた祖父の大統領も拭いたことがない
シリアス一辺倒ではなくユーモアも描かれています
孫の質問は答えづらいものばかり
「死ぬって何?」
「大統領は嫌われているの?」
「テロって何?」
大統領の良心の象徴でもある孫の無垢な視点は
この映画の個性を決定づけています
お馬鹿すぎる節あり

大統領が孫に自分の力を見せるために、電話1本で街の灯りをすべて消す
急に暗くなってクラクションが鳴り響く
電話を孫に渡し、孫が灯りを戻す
また消して点けようとするが、何度命令しても点かない
やがて銃声が聞こえ、大統領はクーデターが起こったことを悟る
このシーンが秀逸で
端的に大統領の権力の大きさとそれに振り回されている国民、そして大統領と孫の関係性も示しています

人々の欺瞞
政権崩壊前は大統領の肖像写真を家に飾って拝めていた人々が、懸賞金目当てに大統領を追ったり殺そうとする
独裁者は旅芸人に扮するひとりの老人になり、反乱軍のレイプや人殺しの暴虐行為が跋扈する
独裁者が悪の根源なのではなく、独裁者を生み出したのはその国の環境であり国民なのだという、皮肉な合わせ鏡
ぜんぶフィデルのせい、ならぬ全部を独裁者のせいにして復讐や憂さ晴らしをしたところで
憎しみの連鎖を断ち切らない限り歴史は繰り返されるばかり
ヨーロッパでの亡命生活を続けているというモフセン・マフマルバフ監督の告発
そして芸術への希望

レビューを書きながら伊丹万作の書記「戦争責任者の問題」を思い出しました
http://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43873_23111.html